プロが教える家づくりのヒント HINT

設計

傾斜地に家を建てるなら


 
住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話しするブログ。
 
今回は『傾斜地に家を建てるときに
あらかじめ知っておきたい規制』
についてお話しします。

傾斜地に建っている家って、
わりとよく見ますよね。

一般的に、
傾斜地は平らな土地に比べて
価格が低く抑えられていることが
多いようですが、
見晴らしや日当たり、
風通しがいいなどの理由から
意外と人気がある土地もあります。

できれば平地に住みたいと思っている方も
傾斜地で自分の希望の家が建つのなら
平地よりお得な場合があります。
 
詳しくは、こちらの記事
読んでみてください。
土地探しのコツ


上の記事では、
住宅建築のプロが傾斜地に
希望の家が建つかどうかを判断する
手順を簡単に書きましたが、
実はプロの頭の中では
もっといろんなことが検討されています。

というのも、
傾斜地に家を建てるときには
安全のために定められた
いろいろな規制を
クリアしなくてはいけないんです。
 
土地の状況と建て方しだいで、
いくつかの手続きが必要な場合もありますし
思っていたよりお金がかかる!
なんてこともありえます。

今日は、傾斜地に家を建てるなら
あらかじめ知っておきたい規制について
まとめてみます。
 


この記事でわかること

□ がけ条例とは
□ がけ条例をクリアする方法
 擁壁・混構造・スキップフロア


 
目次

1.知っておきたい規制①
  がけ条例

2.知っておきたい規制②
  擁壁をつくる場合

3.知っておきたい規制③
  混構造にする場合

4.知っておきたい規制④
  スキップフロアにする場合

5.住宅建築のプロに相談しよう





傾斜地に家を建てようと思ったときに
必ず考えなくてはいけないのが
「がけ条例」です。

がけ条例という呼び方は通称で、
各都道府県の条例の一部に含まれる
条文を指しています。

愛知県の場合は
「愛知県建築基準条例」の第8条、
岐阜県の場合は
「岐阜県建築基準条例」の第6条です。
 
ところで「がけ」っていうと
なんだかすごく切り立った
断崖絶壁をイメージしませんか?
火サス的な・・・。

でも、ここでいう「がけ」は
勾配が30度を超える傾斜地です。

スキー場の上級コースだと
30度くらいのところもありますから、
一般的に「がけ」と聞いて
イメージするような
垂直に近い斜面ではないといえるでしょう。

だから、実際に建てようとしたときに
「え?うちもがけ条例の対象なの?」と
驚くケースが出てくるんです。

では、がけ条例では
具体的に何が規定されているのでしょうか。
愛知県のがけ条例を見てみましょう。

 
(がけ付近の建築物)
第8条
建築物の敷地が、
高さ2mを超えるがけに接し、
又は近接する場合は、
がけの上にあってはがけの下端から、
がけの下にあってはがけの上端から、
建築物との間にそのがけの高さの2倍以上の
水平距離を保たなければならない。
ただし、堅固な地盤又は
特殊な構造方法によるもので
安全上支障がないものとして
知事が定める場合に該当するときは、
この限りでない。

2.高さ2mをこえるがけの上にある
建築物の敷地には、
地盤の保全及びがけ面への流水防止のため、
適当な排水施設をしなければならない。

 
絵にするとこういうことです。
上の建物も下の建物も
がけの高さの2倍の距離分、
がけから離れなくてはいけません。


がけの高さが2mだったら4mです。
4mもスペースを空けなきゃとなると、
敷地の広さによっては
「え?思ったより小さい家しか
建てられない・・・」ということも
ありそうです。

これを知っているのといないのとでは、
家づくりの考え方が
まったく違ってきますよね。

なお、この規制の対象は
がけの高さhが2mを超えるときのみで、
2m以下の場合は
距離をとる必要はありません。

ちなみに岐阜県ではこの
「がけから離さなければならない距離」
に関する規定が
「当該がけの上端から下端までの
水平距離の中心線から
そのがけの高さに相当する水平距離以内に
居室を有する建築物を建築してはならない」
となっています。
 
岐阜県では、愛知県よりは
がけから距離を離さずに
家を建てられそうです。

このようにお住まいの都道府県によって
規定が違いますし、
がけの高さの算定方法にも
細かいルールがあります。
 
専門的な話になってしまいますので、
できれば土地を購入する前に、
すでに土地を所有している場合は
できるだけ早めに住宅建築のプロに
土地を見てもらうのがいいでしょう。

 


擁壁は「ようへき」と読みます。
聞きなれない言葉かもしれませんが、
実は町の中でよく目にしているはずです。

道路からちょっと高いところに
建っている家で、
敷地の高さをつくっている
コンクリートの壁みたいなやつ!


傾斜地を平らに整地するときには、
この擁壁をつくることになります。

このときに気をつけたいのが
宅地造成等規制法にもとづいた
許可申請が必要な場合がある
ということです。

具体的には、以下のような場合に
許可申請が必要です。

・切土の場合で、
 高さが2mを超えるがけができるもの。
・盛土の場合で、
 高さが1mを超えるがけができるもの。
・切土と盛度を同時にする場合、
 盛土部分に1m以下のがけができ、
 且つ切土と盛度を合わせて
 2mを超えるがけができるもの。
・切土または盛土をする土地の面積が
 500㎡を超えるもの。

※切土:傾斜地を切り出して平らな敷地にすること。
※盛度:傾斜地に土を盛って平らな敷地にすること。

 
これらの基準を超える擁壁をつくる場合は
許可申請が必要なので、
平地に家を建てる場合に比べて
時間とお金がかかります。

住宅建築の前に擁壁をつくる工事が発生し、
許可申請の上、検査も必要になりますから、
正直なかなかの費用と期間になると
覚悟した方がいいかもしれません。

ただし、擁壁をつくってしまえば
がけ条例は適用されなくなります。

そうです、愛知県の条文にあった
「堅固な地盤又は
特殊な構造方法によるもので
・・・(中略)・・・
知事が定めるもの」に
擁壁が該当するんです!

擁壁によって安全が確保されたと
判断されるわけですね。

ですので、
がけ条例で載せた絵のケースで
擁壁をつくったらこんなふうに
家を建てられるようになります。


ただ、先ほどもお話しした通り
時間とお金がかかるので、
実際にはほかの方法で
希望を叶えられるようであれば
わざわざ擁壁をつくるという
選択をすることはあまりありません。

お客様の中には
「前面道路と同じ高さまで敷地全体を
下げてしまえばいいんじゃないの?」と
思われる方もいらっしゃいますが、
こういう背景があるんです。

限られた予算はできるだけ
「家」そのものにかけたいですもんね!

それでも擁壁をつくらないといけない場合や
つくった方がいい場合もあります。

擁壁の詳しい解説や費用を抑える方法は
こちらの記事をご覧ください。
がけ条例対策

 


建物の構造には「木造」「鉄骨造」
「鉄筋コンクリート造(RC造)」など
いくつかの種類があります。

混構造とは複数の構造を使った
建物
のことです。

傾斜地に家を建てる場合、
自分の敷地を切土で平坦にしたとしても、
周囲の土地が高いままだったら
その土が崩れないように
しなくてはいけません。

そこで敷地の外周の土地を固めるわけですが
周囲の状況によっては、
土留めでも擁壁でもなく
1階を鉄筋コンクリートなどで
つくる場合があります。

下の絵を見てください。


この絵のような建て方だと、
RC造の1階部分それ自体が
周囲の土地を固める役割を果たします。

もし1階部分をRC造にしなかったら、
建物の裏側に2m以上の
がけができてしまうので
がけ条例の対象になってしまい、
がけから建物までの距離を離すか
擁壁をつくらなくてはいけなく
なってしまいます。

1階をRC造にしたことで
それらの規制の対象にならず、
敷地を有効に使えるようになりました。

ただし、
注意しなくてはいけないこともあります。

その鉄筋コンクリート(RC造)の上に
木造の家を建てると混構造になります
(木造+RC造だけでなく、
RC造+鉄骨造などどんな組み合わせでも
複数の構造を用いていれば混構造です)。

通常2階建て以下の木造住宅は
4号特例で構造計算が免除されていますが、
混構造の場合は構造計算が必要になります。

その分だけ時間と費用が
かかることになりますが、
それでも先ほど取り上げた
②擁壁をつくる場合に比べると
格段に簡単に終わります。

※4号特例
 建築基準法で、2階建て以下、
 延べ面積500㎡以下等の木造建築物で
 建築士が設計したものは
 建築確認の審査を省略することができる
 とされている。
 具体的には構造計算が義務付けられておらず、
 建築確認審査でも構造に関する審査が
 簡略化されている。
 審査が簡略化されているだけで、
 住宅会社・建築士が法令に則って
 構造上必要な強度のある建物を
 つくらなくてはいけないことに
 変わりはありません。


木造住宅の構造計算免除と
耐震性を担保する方法については
こちらの記事をご覧ください。
木造住宅の構造計算免除と
 耐震性を担保する方法


 


傾斜地を活かす方法のひとつに
スキップフロアがあります。
1階と2階のあいだに中2階を設けるなど、
わざと段差をつくって
空間を有効活用する方法です。

こんなやつです

上の絵の場合だと、
左下の床が
前面道路に近い高さにあるので
スロープか数段の階段で
ラクに上がれそうです。

右下の床は
家の裏側の地面と同じ高さなので、
裏庭に出られますね。

このように傾斜地の有効活用に役立つ
スキップフロアですが、
計画するときには
気をつけなくてはいけないことがあります。
 
それは、どこか1カ所でも3層になったら
構造計算が必要
になるということ。

下の絵を見てください。

Aの部分もBの部分も
そのあいだにある階段も、
すべて床が2つ重なっていますよね。

これが「2層」の状態です。
この状態なら構造計算は必要ありません
(先ほどご紹介した4号特例の
2階建て以下は構造計算が不要という
規定によるものです)。

ところが、もしもBの上段の床が
一部でもAの上段の床に重なるところまで
伸びていたら・・・。

そう、Aが3層になってしまいます。
これだと3階建てと見なされるので
構造計算が必要になるんです。

見分け方のポイントは
真上から見たときに床が3つ
重なっているところがあるか
どうか。

スキップフロアを提案されたときに
「ここをもう少し広くしてもらいたいのに」
と思われることもあるかもしれませんが、
このような制限に配慮して
広さを決めていることもある
というわけです。

 


傾斜地の家づくりで知っておきたい規制を
いくつかご紹介しました。

実際に設計する際には、
これらの規制を踏まえつつ
お客様の希望や周辺環境、予算など
様々なことを考慮しながら、
その土地でできる最良のプランを考えます。

当社の設計士は
「傾斜地や変形地など条件が厳しい方が
いい家になることがある」と言います。

住宅建築のプロの腕の見せどころ!
といったところでしょうか。

土地も時間もお金も
上手に活かしてくれるプロに出会えたら、
傾斜地ならではのいい家が建ちます。

傾斜地に家を建てるのであれば、
まずはプロに土地を見てもらって
「どんな造成をすることになるのか
(擁壁?土留め?)」
「希望を叶えられるのか」を
判断してもらうところから始めましょう。