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家づくり

がけ条例対策!擁壁の費用の抑え方

 
住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話しするブログ。

今回のテーマは
「擁壁(ようへき)」です。

擁壁は、傾斜地に家を建てる場合の
注意点をまとめた
こちらの記事で取り上げました。
傾斜地に家を建てるなら
 
この記事はとても好評で
実際に相談のお電話などをいただくことも
増えたんですが、
改めて思うのは
「擁壁が必要な土地って多いんだなぁ」
ということ。

擁壁と聞くとそびえたつ壁のような
イメージを持つかもしれませんが、
実際には高低差2mで
がけ条例に引っかかってしまうので、
土地のどこかに擁壁が必要になるケースは
よくあります。

例えばこんな街並み、見かけますよね。
 
道路の右側の矢印の
コンクリートの部分が擁壁です。

手前に停まっている車と比べると、
およそ2mほどの高さがあることが
わかると思います。

さらに道路の左奥の赤い矢印が
示しているところも擁壁です。

こんなふうに、
街の中には擁壁がたくさんあります。

特に注意したいのが土地探しのとき。

「周辺相場より
ちょっと安い土地を見つけた!」と思ったら
がけ条例の対象で擁壁が必要な場合が
めずらしくありません。

当社にいただくご相談でも、
土地は割安だけれど
擁壁の工事費用がン百万
…なんてことも
(←ちょくちょくあります・・・)。
 
擁壁はもちろん安全のために重要です。

とはいえ、
家づくりのときに限られた予算を
擁壁にたくさん使わなくてはいけなくなると
悲しくなってしまいますし、
あまりに費用が嵩むと
家が建てられなくなってしまうことも
あります。

ひとくくりに擁壁といっても、
費用がたくさんかかるケースもあれば
比較的抑えられるケースもあります。

土地探しに際しては、
傾斜地でも擁壁工事費が抑えられる土地と
高額になりやすい土地の違いを
知っておきたいところです。

というわけで、
今日は擁壁について、
特に土地探しのときに
知っておきたいこと
に焦点を絞って
ご紹介していきます。
 
まずはどんなときに擁壁が必要なのか
がけ条例を復習し、
関連用語を確認、
擁壁の工事費に差がつくポイント、
基礎杭でがけ条例をクリアする方法
などをお話しします。


この記事でわかること

□ がけ条例の概要(愛知県を例に)
□ 擁壁関連用語
□ 擁壁の工事費に差がつくポイント
□ 基礎杭or深基礎で
 がけ条例をクリアする方法
 (愛知県の場合)


目次
 

擁壁が必要になるのは
がけ条例の対象になったとき。

がけ条例は自治体によって
多少内容が違いますので、
今回は愛知県を例に見ていきましょう。

詳しくは先ほどご紹介した記事を
ご覧いただくとして、
要点だけカンタンにまとめると、
 
●がけとは勾配30度を超える傾斜地のこと。
●がけの上下にある建物は、
がけの高さの2倍分、
がけから離れなくてはいけない。
●がけ条例の対象になるのは、
がけの高さが2m以上のとき。

※その他詳細は
愛知県建築基準条例第8条をご覧ください
 
わかりやすく絵にするとこういうことです
 

仮にがけの高さが2mだとしたら、
建物はがけから4m離して
建てなくてはいけません。

がけが3mだったら6mです。
 
土地にもよりますが、これだと
家がとても小さくなったり
建てられなくなったりすることがあります。

そこで登場するのが擁壁です。

擁壁をつくると
この距離を離さなくてよくなるので、
土地を有効に使えます。
 

つまり、現実的には
勾配30度以上
高さ2m以上のがけのある土地で
擁壁が必要
な場合が多いということ。

土地の条件や建てたい家のプランによっては
傾斜地の記事でご紹介したような混構造、
スキップフロアなどの方法もあります。

ただ、やはり家が建つ部分を
できるだけ平坦で広くした方が
使い勝手がよくなるケースが多いので、
土地探しのときに傾斜地が候補になったら
擁壁をつくって土を入れたり削ったりして
平坦な敷地をつくることを
想定しておいた方がよいでしょう。


 
 

実際にインターネットや不動産屋さんで
不動産情報を見るときには
「備考」欄や「その他法令上の制限」欄を
確認しましょう。

特にネットでは
情報サイトによって記載方法が違うので、
詳細まで確認してください。
 





 

次に、擁壁について考えるときに
知っておきたい用語を
押さえておきましょう。


現場打ち
現場で型枠をつくって
コンクリートを打設する方法。

現場の状況に合わせて施工できる、
3mを超えるような高い擁壁がつくれる
などのメリットがあります。


プレキャスト(既製品)
工場生産の既製品を
現場に運んできて設置する方法。

現場打ちより工期が短縮できる、
施工時に天候に左右されにくいといった
メリットがあります。

寸法が決まっており、
宅地造成に用いられるものは
高さ3m以下が中心です。


間知ブロック
間知(けんち)ブロックは
既製品のブロックで、
積み重ねて擁壁をつくります。

こんなやつ、見たことありますよね
 


一般的にコンクリート擁壁より
間知ブロックの方が
費用が抑えられる
ケースが多いです。

が、コンクリート擁壁が
垂直に施工できるのに対して、
間知ブロックは斜めに
積んでいかなくてはいけません。

その分、擁壁の上の敷地が狭くなる
というデメリットがあります。


切土・盛土
切土(きりど):
傾斜地を切り出して平らな敷地にすること。
盛土(もりど):
傾斜地に土を盛って平らな敷地にすること。

傾斜地に擁壁をつくって
平坦にするときには切土か盛土、
あるいは両方することになります。

建築地が宅地造成等規制法の対象の場合、
次の条件に当てはまると
許可申請が必要です。

・切土の場合で、
高さが2mを超えるがけができるもの。
・盛土の場合で、
高さが1mを超えるがけができるもの。
・切土と盛度を同時にする場合、
盛土部分に1m以下のがけができ、
かつ切土と盛度を合わせて
2mを超えるがけができるもの。
・切土または盛土をする土地の面積が
500㎡を超えるもの。
 


不適格擁壁
規制ができる前からあるなど、
現在の法令に基づく基準を
満たしていない擁壁を
不適格擁壁といいます。

地域によって建築確認申請、
宅地造成等規制法、都市計画法、
津波防災法の対象になり、
それぞれ申請や許可が必要です。
 
現在住宅などが建っている擁壁でも
不適格擁壁はたくさんあります。

一昔前に多いブロック積みや
大谷石積みは不適格擁壁ですし、
コンクリート擁壁でも
建築確認申請の検査済証がなければ
不適格擁壁
です。

既存擁壁のある土地の購入を検討する際には
不動産業者に擁壁の検査済証があるか
必ず確認しましょう。

家づくりについて相談している
住宅会社があれば、お願いすれば
こうしたことも調べてくれるはずです。

その土地に希望の家を建てられるかを
判断するには、
建ぺい率などの規制、
擁壁工事費を含む資金計画、
希望するプランとの整合性などを
複合的に考えなくてはいけません。

そういう意味でも、
不動産業者だけでなく、
住宅会社・建築業者に相談した方が
安心です。



それでは
擁壁の費用に差がつくポイントを
確認していきましょう。

ひとつめは擁壁の高さです。
擁壁は高さによって厚みが変わります。

強度の問題ですから、
当然、高い方が厚みが必要になります。

具体的な基準は各自治体によって
決められていますが、
例えば名古屋市のL型擁壁の規定は
こんな感じ(断面図です)
名古屋市擁壁の標準構造図より


上図の左が高さ2m、
右が高さ4mの擁壁です。

専門的なので構造的な意味は
ちょっと置いておくとして、
すべての数字が4mの場合の方が
大きくなっているのがわかりますよね。

擁壁は長さより厚み(=高さに比例)の方が
コストに影響します。

また、擁壁をつくるには
一度土を掘って
基礎をつくらなくてはいけませんが、
高ければ高いほど
掘り返したり埋め戻したりする
土の量が増えますし、
深く掘るためには大きな重機が必要です。

土を扱う量が多いと費用がかかりますし
(次の項目参照)
重機も大型なものほど高額です。

つまり、高い擁壁をつくるほど
コストアップ
になるということ。

表面積が同じ40㎡の擁壁をつくるとしたら、
高さ2mの擁壁を20mつくるより、
高さ4mの擁壁を10mつくる方が
費用が高くなる
のが一般的です。

実際には周辺環境やプランによっても
工事費が違ってきますので
一概には言えませんが、
ほとんど平坦で
一部に大きな高低差がある土地より、
少なめの高低差が長く続く土地の方が
擁壁工事費を抑えられる可能性がある
といえます。

なお、高い擁壁をつくると
擁壁自体が非常に重くなるので、
それを支えるために
地盤改良が必要になるケースもあります。

すると、さらにコストアップになるので
注意が必要です。



 

傾斜地を平坦にするためには
切土または盛土、あるいは両方が必要です。

そのときに必ず必要になるのが
土の処理費です。

具体的にはこんな感じ
 
傾斜地を平坦にするときの
土の処理費のおもな内訳

□削った土の処分費(残土処分費)
□盛土のための土の購入費
□削ったとき、購入したときの
 土の運搬費(機材費を含む)

大きな重機がやってきて
土を削って運び出したり、
あるいは逆に新しい土を運んできて入れたり。
 
なんとなく、なかなか大掛かりな工事なのは
イメージできますよね。

近年は廃棄物の処理が
どんどん難しくなっていますから、
残土処分費も高くなる一方です。

処理する土の量によっては
数十万円~百万円以上
かかることもあります。

では、どうすればいいかというと、
 
削った土を敷地内で使えれば
土の処理費を抑えられます。

つまり傾斜地の高い部分の土を削って
低い部分に移動させて使えたら
コストダウンになるというわけです。
 

ただし、この方法は上図のように
盛土と切土両方が必要なケースでしか
使えません。

周辺環境やプランによって
地盤面の高さをどこにするかは
変わってきます。

住み始めてからの環境は重要ですから
造成費を抑えることばかり
優先してはいけませんが、
可能であれば土の処理費の面でも
有利になるように検討してもらえないか
相談してみましょう。


 
 

先ほどの
知っておきたい擁壁関連用語のところで、
擁壁には現場打ちでつくるものと
工場生産の既製品=プレキャストがある
とお話しました。

現場打ちとプレキャストのどちらがよいかは
ケースバイケースです。

基本的にはプレキャストの方が
安価なケースが多いですが、
設置場所の環境によるため
一概には言えません。

プレキャストは寸法が決まっているので
つくりたい擁壁にちょうどよくないと
採用できませんし、
運搬・工事に10トン車や
大型のレッカー車が必要なため、
道路などの周辺環境によっても
採用できません。

プレキャスト擁壁そのものは
費用を抑えられても、
使用する数や場所によっては
運搬費の方が高額になることもあります。
 
もちろん、現場打ちとプレキャスト擁壁を
組み合わせて施工することもできます。

どちらがよいかは
プランや敷地環境によって違うので、
どのように住みたいかを
住宅会社にしっかりと相談し、
両方の可能性を念頭に置いて
検討してもらいましょう。



 

最初に紹介した記事の中で
擁壁のほかに
混構造、スキップフロアを
ご紹介しました。

これらの方法は
がけの下に家を建てる場合に適していて
がけの上に家を建てる場合には使えません。

がけの上に家を建てる場合は、
やはり基本的には擁壁をつくって
平坦な地盤を大きくつくるのが
使い勝手がいいといえます。

平坦にしておけば家を建てても庭にしても、
将来的にもなにかと使いやすいですからね。

でもでも。
擁壁が高さ4mとかで
長さも10m以上とか必要な場合、
それだけでン百万円とか、
下手をすると1,000万円近く
費用が掛かってしまうことがあります。

それはいくらなんでも・・・
と思いますよね。

そんなときにもうひとつ検討してみたいのが
深基礎または基礎杭を使う方法。

愛知県建築基準条例の第8条1項
但し書き規定が根拠です。

(略)
2(2)がけの上に建築物を建築する場合で、
当該建築物の基礎を
鉄筋コンクリート造の布基礎
その他これに類するものとし、
かつがけの下端から水平面に対し
30度の角度をなす面の下方に当該基礎の底
(基礎杭がある場合は杭の先端)を
設けたとき

 
つまり、がけの下から30度のラインより
下まで深基礎をつくるか杭を打てばいい

ということ。
 


現地の状況にもよりますが
基礎杭は結構な数を
打たなくてはいけませんから、
やはり数百万円はかかることがあります。
 
それでも同じ条件で
擁壁をつくるのに比べれば
コストを抑えられる可能性が高いです
(状況によりますが、高低差2mくらいでも
擁壁よりはコストダウンできそうです)。

この方法のデメリットは、
土留めとなる擁壁がないため
斜面部分の土が流れ出す恐れがあること。

斜面部分には植栽を植えるなど
土を留めるための
なんらかの措置が必要です。

また、基礎杭の位置と数は
プランによって決まるため、
土地探しの段階では
建てたい家の規模から
概算費用を出すのが限界です。

具体的な費用は
プラン決定後までわかりませんので、
概算見積もりから多少の増減はあると
考えておきましょう。
 
なお、東京都など
同様の規定がある自治体もありますが、
岐阜県にはこの規定はありません。

お住まいの地域によって異なりますので、
よく確認してください。

土地探しのときには、
検討段階で不動産業者だけでなく
住宅会社に相談しましょう。

住む人の希望や敷地環境を考慮して
その土地をどう使うかによって、
擁壁を含む造成の方法も違ってきます。

それは実際に設計・施工する
住宅会社でなければ判断できません。

傾斜地に限らず、
不動産屋さんがいい土地だと思わなくても
住宅会社に相談したら
「住む人にとっていい土地」に
することができる可能性がありますので
住宅会社にも相談することを
おすすめします。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。
土地探しのコツ