製材所とこだわり住宅づくり
私の古い家に、クジラの形に似た大きな鋸(のこぎり)があります。
森林から伐り出した木を板などに挽くための縦びきの大きな鋸で、室町時代の頃から使われた二人で挽くものに次いで江戸時代になってから使われた一人で挽く柄のついた形式のものです。
幼い頃、祖父が裏山の天満宮の少し平坦な場所で、直径1mもありそうなモミの丸太を削って角材にし斜めに立て懸け、一定間隔に何本もの墨を打ちそれに沿ってその鋸で垂木や板を挽いていました。
祖父は木挽(こびき)という、古くは杣(そま)と呼ばれた人たちのうち、技術的に分化した職人で、木材を挽いて製品をつくる、これこそ「日本の製材の始まり」の仕事をしていました。
さて、マルワイ製材所(中津川市加子母)は、年間3500㎥の国産材を加工する製材所です。
日本の国有林や民有林から木材生産が盛んに行われていた時期には、全国の都市や農山村にも小規模な製材所が見られましたが、1970年代になって外材の輸入拡大やプレハブ工法の拡大により年々加工量が減少し、一方、全国の海辺を中心に輸入材の加工を行う大型のメーカーができるなど、その形は変わってきました。
マルワイ製材所のように、国産材を原木から製品まで一貫して製材加工する旧来の製材所は、減少の一途をたどっています。
製材所では台車装置の付いた大型帯ノコによって柱、梁、桁のほか木造住宅用部材の製品が100種類以上もつくられていて、まさに木材のデパートです。
製品の主な発注元は、弊社中島工務店の建築部で長年住宅づくりを連携して行ってきた成果として、こだわりを持った住宅づくりに必要な多様な部材を速いスピードで供給する材料供給システムが確立しているのです。
製材所の土場には、多種多様な木材がストックされ樹種も、ヒノキ、スギはもとよりマツ類、モミ、ツガ、サワラ、コウヤマキ、ネズコなどの針葉樹、クリ、トチノキ、ケヤキ、タモなどの広葉樹のほか、顧客の要求で米マツ・ツガ・ヒバ、スプルース、ホワイトウッドの外材も用意しています。
これが長級(2~8m以上)、径級30~40cm以上、色調に幅があるなど、自動車部品に匹敵するほどの種類です。
木材は、長い年月を経て成長し、伐採・搬出されて市場に届くには期間を要するうえ、伐採の適期が限られます。
丸太から製材品となっても乾燥に5日から一週間かかるものもあり、急いで調達することは至難の業です。
また、最大の悩みは資源の枯渇です。
日下部豊社長は、若くして十数年間、名古屋の木材市場の営業を担当し、東北から四国までの広い範囲で木材の流通に携わりその後、父の製材所を継いで35年になります。
多様な手作り住宅への材料供給に応えられるのはこれまで積み重ねてきた木材に関する知識と経験、それと多くの情報網を持っていることです。
中島工務店の木材にこだわる住宅づくりには既製品と言われる材料が使われることは少なく、他社から見て「特注」といわれる自然素材「無垢材」の中から、さらに吟味された適材が届けられているのです。
「特注」こそ「我が製材所の通常の仕事です。」豊さんはそう言っていました。
(中島工務店 総合研究所長 中川護)

