モデルハウス「加子母子屋」

中島工務店神戸支店、大阪支店が、関西最後の開発地と言われている大阪・彩都において、モデルハウス「加子母子屋」をオープンしたのは平成27年10月でした。それから1年を経過した28年度に、「ウッドデザイン賞」を受賞し,10年を経過した今では、各地で建設が進んでサラリーマンハウスとして注目されています。

ウッドデザイン賞(Japan Wood Design Award)とは、木のある豊かな暮らしを世の中に広め、木材利用を促していくことを目的に林野庁が2015年から創設した賞です。林野庁は、これまで10年にわたって地球温暖化対策の一環として国産材利用拡大に向けた「木づかい運動」を展開し、木材利用に対する感謝の意を表す顕彰が実施されてきました。10年を経過し、これを発展させるために新しくこのウッドデザイン賞が設けられました。
この賞の特徴は、木材をたくさん使うことを評価するだけではなく、木材利用が利用者となる「国民にとって魅力的なものであるか」という消費者の視点で評価することの他に、出来上がった住宅や木製品の善し悪しに加え、どのような取り組みが成されたかというその取組過程(process)までが表彰対象とされたことです。第一回目の応募は800点を超える応募があり、大きな反響となりました。
そして2年目、激戦の中から入賞の栄に浴すことになったモデルハウス「加子母子屋」とは、どのようなハウスなのでしょう。
私たちのふるさと岐阜県美濃・飛騨の里には、古くから切妻(きりづま)屋根の民家が母屋と「はなれ」(離れた子屋)が緑の茂みに見え隠れして、そのたたずまいこそ日本の山村風景のひとつとなっています。
ここに受け継がれてきた生活は、親子三代の家族のほかに、近所の人々がお互いに交流し、温かな会話が静寂の中にこだまする自然に満ちたものとなっています。住み続けられた住宅は、頑丈な柱に支えられた田の字型によって開放された空間となっています。こうした住まいを現代の都市部でも採用したいというのがコンセプトとなっています。都会の生活に疲れても、自宅に帰ればヒノキの香りに包まれた住空間を再現した住宅が、モデルハウス加子母子屋です。

この住まいのなり立ちを簡単に表現すれば、台風などの強い風に対しても地震の揺れに対しても強力な壁(耐震等級2)によってこれを持ちこたえ、建物自体の重さには建物中央部の2本の大黒柱がもちこたえる強くて可変的な平面が基本となっています。そのつくり方は、4畳半又は6畳(2.73×2.73m:2.73×3.64m)の大きさで、玄関と水回りの二つのコアが基本となっています。
このコアを1階の四隅のどこかに置くことでどんな方角に接道する敷地であっても対応できる平面が出来上がります。この二つのコアの組み合わせ方はパズルのように200通りを超え、その中から暮らし方に併せて最適なコア配置が選択できます。

私たちは住まい方を考えるとき、どんな暮らしを描くのでしょう。例えば、読書や音楽を楽しむなど自分の時間を大切にしている人、週末にはお友達を家に呼んでパーティーを開く人、趣味のインテリアに囲まれて暮らす人、部屋を友達とシェアしたり、愛犬と一緒に暮らす人など、どんな暮らしをしている人も、どんな暮らし方を夢見る人も、この加子母子屋によってそれが可能となります。
こんな素敵な住宅づくりはどのようにして誕生したのでしょう。そのプロセスとミッションについて見てみましょう。
栗林賢次建築研究所(大阪市)代表は、関西を中心に活躍する建築家で、はじめて加子母を訪れ、里山に切妻の木造家屋が点在する風景が氏の心を虜にしました。清々しい空気、おいしい食材と、そこで展開されてきた素朴な住民の生活、何よりも氏を引きつけたのは清楚で気品のある木造住宅でした。豊富な東濃ヒノキなど国産の木材を使って、サラリーマン家族が無理なく入手できる健康に暮らせる住まいづくりの構想とそれへの挑戦でした。
一方、服部滋樹graf(大阪市)代表は、顧客や消費者にとって価値のあるブランドを構築するための活動家で、ブランドの特徴や競合する企業・製品との違いを明確にするなど組織的かつ長期的な取り組みを各地で行っています。 
元々、ユニット家具の開発が専門で、ユニット家具を変えることで住まい方まで変えてしまえることに着目し、それぞれの住まい方を、家具の配置をユニット単位で変化させることによって、求めている生活空間として馴染むものにすることへの挑戦を続けてきていました。こうした2者に加わったのが、関西地方をエリアとする中島工務店神戸支店で、ほぼ20年にわたって住宅の規格化等による地域材普及促進に取り組み、このところドミノ研究会にも加わり、住宅づくりの骨格(スケルトン)と中身(インフィル)を分離して計画を進めていく手法に着眼し、前述の専門家と共同プロジェクトを立ち上げました。その成果が、モデルハウス加子母子屋として完成したのです。
このように、それぞれのミッションが共同して開発に取り組み、完成した住宅は、発表されて以来脚光を浴びており、住宅の建設を希望している見学者のほかに、建築業界等にも注目され、同仕様のモデルハウスが滋賀県長浜市、富山県高岡市に建設されるなど、問い合わせが多くなっています。
ウッドデザイン賞とモデルハウス加子母子屋は、大きくは地球環境保全など木材活用がもたらす多面的な価値を住宅として提案するとともに、共同でつくりだすプロセスも、心のこもった住宅(製品の一部)として歓迎されているのでしょう。             

( 中島工務店総合研究所  中川 護 )