年輪について

年輪について

 毎年、春になると大黒柱の森(社有林)で開催されてきた「水と緑の勉強会」では、参加した皆さんの目前で、大きくなったヒノキを伐倒します。「ズッシ-ン」と、重々しい響きとともに根元直径が約80㎝以上となったヒノキの幹は地表に横たわります。すかさず中島紀于社長は、伐られたばかりの真っ白な切り株に近寄って年輪を数えます。伐採前に、皆さんがそれぞれ年輪の数を予測し、当てっこ(クイズ)をするのも勉強会の楽しみの一つとなっています。今回は、年輪について書きましょう。

 年輪(ねんりんgrowth ring)は、日本の大部分を占める温帯から亜寒帯の森林に生育する樹木の断面に生じる同心円状の模様で、成長輪ということもあります。この成長輪のうち、1年に1個ずつ増加するものを年輪というのです。これを数えることによって、その木の樹齢や林齢がわかります。春期に生まれる細胞は、大きめの細胞でヒノキなどは色が白く、また、夏期にできる細胞は、細胞壁が密になっているため色が茶色などで濃く、これが線のように見えるのです。また、熱帯地方の樹木にはこれがありません。気候が乾季と雨季がある地域では、乾季には成長が休止すために年輪に似た成長輪ができます。

 私は、これまでに多くの樹木を伐採し、樹幹析解(樹幹を一定間隔に区切って円盤を取り、樹木の成長過程を精密に調査する方法。中島廣吉:北海道大学森林経理学教室1930)を行いました。その際、数えた年輪の数に、切断面の高さに至るまでに要した年数、例えば切断面が地際から30センチ程度の高さの場合、人工林は3年の数を、天然木である場合は、もっと多くの年数を加算してその樹木の年数とします。また、年輪の輪が、一周しないで途中で裁ち切れの状態のものは擬年輪(ぎねんりん)と呼んで、これは加算しません。異常な気象の年などにできると思われるものです。

 一方、広葉樹には道管という通道組織があって、水分や養分を上下方向に移動させるはたらきをしています。この道管が一列に並んでいる樹木を環孔材といい、ナラ、タモ、ケヤキなどがあります。環孔材は春に肥大成長を開始した直後に道管が出来て一列に並び、これが年輪としてみてとれます。広葉樹にはこの導管の並び方によって、環孔材のほかに散孔材があり、この2つに分類されます。環孔材は導管が環状に並んでいるのに比べ、散孔材は導管の配列が整っていなく、不規則に散らばっています。散孔材は導管が細く、手触りがスベスベしたブナ、イタヤカエデ、ハンノキなどがあります。導管が小さくて虫眼鏡でも微かに確認できるくらいです。若い頃、富山県の長棟の国有林や、これに続く岐阜県飛騨市の山林で、散孔材のブナを大量に調査したことがあり、断面に塩酸をかけて少し焼いて年輪を数えたことがあります。
 
 また、古い絵本などに、年輪幅によって方角(方位)を知ることができるという誤りが書かれていたことがあります。しかし、樹木の成長は、暖かい南側に面した方の年輪幅が広くなり、北側は目が詰まっているということはありません。切り株を見れば方位がわかるという話しは誤りです。針葉樹が斜面に生えている場合に、木が谷側に傾かないように盛んに成長するため、谷側の目が広くなり、山側の目が狭くなっているのです。植物の茎の中心部(柔組織で髄または芯という)が、中心からずれた材を偏心材と呼びます。偏心材の年輪幅が広い部分は、生育期間中には谷側に面しており、この部分を「あて材」(圧縮あて)と呼び、樹木全体を谷側から支えていたため圧縮されて育って堅くなり、製材するとバラバラになったり、曲がったりねじれたりするので木材の欠点となります。広葉樹では、針葉樹とは逆に山側に引っ張って樹木自身の体重を支えているため、斜面の上側にあて材(引っ張りあて)が形成されたりします。いつも、天然林を歩いて気づくことは、基本的に木曽ヒノキやサワラなどの針葉樹は斜面に対して垂直に生育しており、ミズナラやミズメなどの広葉樹は、斜面に直角に立っています。これは、根の張り方について、針葉樹は主根(斜面の下側にある太い支持根)が発達して斜面の下部から体重を支えているのに対して、広葉樹は、斜面上部にしがみつくようにして生育しているためではないかと考えています。このように、材の成長には様々な要因が関係し、年輪幅についても方角だけで決まるものではないことが解ります。


 年輪を詳しく調べることは、樹木の年齢や林齢を知ることのほか、大規模な干ばつや山火事、また病虫害などの痕跡が残されていることがあり、この痕跡と過去の様々な記録を比較することによって、森林の生育環境の歴史等を調査することができ、年輪年代学として研究が進められています。

(中島工務店  総合研究所  中川 護)

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