森林と家づくり(1)
中島工務店のイベントのひとつに「東濃ひのきの家ふるさとまつり」があります。
参加者は、これまで中島工務店で住宅を建てた顧客の皆さんで、「この夏も加子母へ行こう」をキャッチフレーズにこのイベント参加をご案内しています。
祭りといっても獅子舞や神事があるわけではありません。
渓谷の散策、魚釣りのほか、トマトの丸かじり、ブルーベリー狩り、トウモロコシを生のまま食べたりしぼりたての牛乳を飲むなど普段の生活ではできない盛りだくさんの体験を楽しんでいただくのです。
さらに、メインとなっているのは、その名も「大黒柱の森」と呼ぶ森林内で、ヒノキの小さな苗を植える植林作業です。
木材を使って住宅を建てた方々が、次の世代のために豊かな森林を継承していこうという壮大な思いが込められた「記念植樹」の体験です。
登山などレクリエーション目的で森林に入った経験はあっても、林業現場の森林に立ち入ったことのない参加者は山に木を植えることなど、全く初めての体験で、とても好評となっています。
関東、中部、関西など主として都市部に住居を持つ参加者は、いつも案内役を務める筆者から森林の話や植林の方法などの簡単な説明を受けた後それぞれの家族ごとに、唐鍬(長方形の鉄板の一端に刃をつけ、木の柄をはめた開墾や根切りに使う道具)で直径50~60cmの植え穴を掘ります。
ヒノキ苗には表裏があるので、苗の表側を陽光に向け、根を植え穴いっぱいに広げて垂直に立て、周囲から堀りあげた土を丁寧に根元に入れ足で軽く踏みつけます。最後に乾燥を防ぐため落ち葉などで根元を覆うと植林作業は完了です。
傍らには真新しいヒノキの杭状の標柱を立て、家族の氏名と期日のほか思い思いの記録を残します。
植え終えた植栽苗の前で家族そろって記念写真を撮りますが、参加者すべての方々の満足感にあふれた笑顔がレンズを通してあふれています。
戦後、わが国は、「国土緑化」を合言葉にして荒廃した全国の野山に木を植えました。
当時は、木を植えたことのない人はいないほどすべての国民が植林に参加したのでした。
あれから60年以上が過ぎて、その森林は豊かに成長してきましたが、木を植えた経験を持たない人の数が圧倒的に多くなりました。
数年前、林野庁の研修で講師を務めた際、専門分野である職員にそのことを質問したところ、全国から集まった国有林の将来を担う若手職員の研修生45名のうち、植林業務の経験者は皆無であったことに驚きました。
毎年、天皇・皇后両陛下をお迎えして国内各地で開催される全国植樹祭は、イベント性は高いものの、国土復興の証として国民一丸となって植林・緑化に励み、木を植えることの大切さを継承してきた緑化思想の象徴として意義深い国家行事となっています。
今では国内に1千万haの人工林ができあがり、木材資源の増大はもとより国土保全、水源涵養のほか、地球環境の維持のためにも世界に例のない偉業となっています。
森林・緑化は大気中の二酸化炭素削減のためにもかなり重要となっており、山に木を植えるという思想と技術は高度に発展した現代、そして今後も継承していかなければなりません。
ふるさとまつりでは、住宅を建てていただいた多くの都市部に住む顧客に対して、加子母を第二のふるさととして末永く交流が続くことを期待しています。
そのために、思い出に残る、記憶に残る体験として記念植樹は重要だと考えています。
自然とふれあい、森林と木材、人間社会と地球環境等、木材を使って初めて知り得た知識、木造住宅をつくることによって会得する高いスキルを顧客の皆さんとともに共有したいと考えています。
このイベントや交流を通じて顧客同士の出逢いが深まり、木造住宅に住む人たちの森林を大切にする気持ちが通じ合う、新たなコミュニティーが生まれてきているのです。
(中島工務店 総合研究所長 中川護)