森林再生(被災した森林牧場をふたたび)

森林再生(被災した森林牧場をふたたび)

2012年の年末に興味深い相談が舞い込んできました。
福島第一原発事故による放射線物質によって汚染された森林を除染して、現在避難している「森林牧場」を再開したいというのです。
震災前からこの地方と関わりがあったので、「何とかしよう」と老体を奮い立たせています。
 
事故発生以来、汚染された広大な森林の除染は林業関係者の大きな関心事であり、また、何らかの形で協力したいと考えていたので、「これなら私にもできそう」と、思いは被災地に向かっています。
 
森林については、汚染されても放射性物質が流出することは少なく、むしろ除染作業によって放射性物質が流出するリスクが高いため、除染を行うよりも放射線量が自然に低下するのを待つ方がよいとする考えがあるのです。
 
しかし、狭い日本では、農地や住宅が森林と隣接することが多いうえに、山林に出入りする生活スタイルが古くからあり、この相談も森林そのものの利用の事案ですから、森林の除染が必要になります。
 
飛散した放射性物質は、樹木の枝や葉を汚染し、その後落葉等により徐々に森林の土壌に移ります。
除染作業をすると土壌とともに森林の外に流出して周辺を汚染する心配があるため、非常に難しいとされています。
 
森林総合研究所の調査で、除染は、落葉広葉樹林ではその落葉等を除去することが効果が高く、常緑の針葉樹林などでは、間伐や枝打、場合によっては伐採することで汚染物質を取り除く方法などが研究されています。
 
相談された対象の森林は、ミズナラ、コナラなどの40~50年生の広葉樹林で林内には乳牛が放牧されていました。
林内放牧は、我が国では事例が少なく、被災前まではこの林内の牧場牛から生産された牛乳が好評で、美味しい牛乳とともにヨーグルトなどの乳製品が、森のカフェで再び販売されることが心待ちにされています。
 
さらに、この牧場に隣接して建設された新しいコミュニティ型住居では、都会から移り住んできた住人たちによる新たな都市と農村の交流活動が芽生えています。
森林に包まれた快適な住環境、ここにも森林の汚染被害など、思いもよらない影響が及んでいるのです。
 
この森林の除染は、基本的には放射線物質の多くが付着している下層植生の刈取り、落葉、落枝などの堆積有機物を、早い機会に除去することが必要になるでしょう。
 
その後は、牧場としての利用になるので放射線物質の残留量の空間線量率だけでなく、土壌中の放射性セシウム濃度の上限値に引っ掛かり、必要によっては表土(A0層)の除去も必要になってくることも予想されます。
 
さて、そこからが私たちの出番です。
長い時間の経過で森林が自ら堆積してきた貴重な地被物や腐植層(A0層)を失った裸の山を緑豊かな森林に再生させるのです。
 
かつて勤務した名古屋営林局管内の岐阜県多治見市、土岐市、瑞浪市、及び愛知県犬山市などの森林は美濃焼の燃料として古くから収奪が繰り返されたために極度に荒廃し禿山になっていました。
この瘠悪林地を治山事業によって現在の森林に復元しました。
 
また、これまで12年にわたり砂漠化が進む中国の内モンゴルなどにおいて植林緑化に関わってきた経験を生かし、森林を再生して森林牧場の再開を正夢にしたいと思っています。
 
 
(中島工務店 総合研究所長 中川護)