付知川流域まるごと博物館
20年ほど前、林野庁職員として現中津川市付知町に住んだことがあります。
その後、今も変わらず中津川から下呂までの国道257号線は通称「花街道」と呼んで、沿線には地元住民のみなさんによって四季折々の花が植えられ、なかでも街路樹の「さるすべり」(みそはぎ科)はいつも見事に咲きほこり、通行人を楽しませています。
2年間お世話になっている間に、地元の青年達で組織する夢倶楽部(ゆめくらぶ)の皆さんと「付知川ハートリバートーク」を、また、緑の週間にはローマン渓谷で「植樹祭」を行い、ヒトツバタゴ、シデコブシ、ヤマザクラなどを植えました。
この頃、海洋にもたらす森林の恩恵が話題になり、森林と河川そして海洋の三者の機能が密接に関係し美しい川の流れや海を維持するためには、その上流の森林がいかに大切であるか ということが注目され、森林の機能の重要性が認識されるようになりました。
この地域の活性化を考えるとき、先祖代々、営々と築いてきた人々の生活や文化そのものを伝承し、緑に恵まれたこの美しい自然を生かした「郷土(むら)づくり」が大切で、それを町村や集落単位で考えるのではなく、付知川流域を単位とした「エコミュージアム」の理念を取り入れることが最も似合っていると訴えました。
40年以上も前にフランスで誕生した「エコミュージアム」は、生活と環境を大切にしようという理念を基本にしたまちづくりで「生活・環境博物館」とも呼ばれています。
人間の生活は、生態系を支えて環境と経済のバランスの上に成り立っており、この環境を大切にして生きることが真の豊かな生活につながるという考え方が基本になっています。
付知川流域には、福岡町、付知町、加子母村がありここには美しい自然の中に、長い年月をかけて築き上げられてきた四季折々の美しい農山村のたたずまいを見ることができます。
流域に入ると、川がつくりあげた河岸段丘の両岸を結ぶいくつかの橋が目につき、この橋のある風景がこの地域を象徴する河川景観をなしています。
さらに最上流まで進むと深い森林で、樹齢400年以上を数える天然のヒノキを主とする針葉樹が鬱蒼と川面を覆っていて、緑と水の源泉となっています。
この地域は90%以上が森林で、古くから「木曽ヒノキ」を通じて木の文化を育み、人々の生活そのものが今なお森林と深くかかわっています。
集落を左右に押し分けるようにして流れる清流は、名水百選に挙げられる美しい水を誇っています。
源流一帯は国有林で、天然のヒノキの森林は、古来の宗教的・美術的建築用材の宝庫として重要な役割を果たしてきました。
こうした自然条件や社会的条件からも、日本有数のエコミュージアムの可能性を持っているのです。
(つづく)
(中島工務店 総合研究所長 中川 護 )