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家づくり

ウッドショックによる合意書

住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話しするブログ。

今回のテーマは
「ウッドショックによる合意書」です。


2021年4月、
住宅業界をウッドショックが襲いました。

いまや一般のニュースでも
取り上げられるほどの事態となっており、
着工や引き渡しの遅れ、値上げが
現実になってしまいました。

大手ハウスメーカーでは
坪単価数万円の値上げが起こっています。
ウッドショックだけの原因ではないですが。

このような状況の中、
ネット上では「住宅会社から合意書に
サインを求められたけどどうしたらいい?」

といったお施主様の声が
見られるようになってきました。

工期の遅れや値上げの可能性に
合意を求めるもので、
お施主様が困惑されるのも当然です。

今回はこのウッドショックによる
合意書について工務店の立場から
背景やチェックポイントを
率直に解説します。

結論としては、
納得できないならサインしない方がいい、
けれどサインしなければこの1年程度は
着工できない恐れがある

といったところです。

ウッドショックについては
こちらの記事をご覧ください。
ウッドショックの背景とアドバイス




この記事でわかること
□ ウッドショックによる合意書とは
□ 合意書が求められる背景
□ 合意書のチェックポイント
□ 合意書にサインしなかった場合、
 または合意書なしで
 着工した場合に起こること



 
目次


1.ウッドショックによる合意書とは
2.合意書が必要な背景
3.合意書にサインするべきか

4.合意書のチェックポイント

5.合意書にサインしなかったときに
  起こること

6.合意書なしで着工したらどうなる?
7.まとめ

 



ウッドショックによる合意書に
定型はありません。

住宅会社・工務店によって
細かい内容は異なりますが、
目的は同じで契約後・着工後に
工期および金額が変更になる
可能性があることに合意する

というものです。
通常は契約書に工期や金額が明記されていて
お施主様と住宅会社は
その内容に同意して契約します。

もちろん工事中にいろいろな事情で
工期が延びたり、
仕様変更で金額が変わることはあります。

その場合は改めて変更契約を結ぶ
といった対応になりますが、
それは天候等による
やむを得ない工期延長だったり、
お施主様の希望あるいは
納得した上での仕様変更なので
ウッドショックの合意書とは
位置づけが異なります。
 
ウッドショックの合意書に
お施主様が困惑されるのは、
工期や金額がどうなるのか
わからないからですよね。
 
それもきちんと同意して
契約したにもかかわらず、
「予定通り建たないかもしれないし、
値上がりするかもしれないけど
よろしくね」と言われているようなもの
ですから簡単に納得できなくて当然
です。

私たち住宅会社もこんな合意書に
サインをいただきたいわけではありません。

ですが、そうしなければならない
事情があります。

 

ウッドショックにより、
一部木材は入荷時期が未定で
金額もわからないという状況が
続いています。

特に金額は「木材は時価」といわれる
異常な状態になっていて、
私たち工務店も発注しなければ
金額がわかりません。

日々価格が変わるため、
発注前に見積もりをとるという
当たり前のことができなくなっていて、
発注して初めて金額を教えてもらえるのが
実情
です。
 
おそらく木材を売る側も
本来は見積もりに対応したいはずです。

けれども彼らもいくらで
仕入れられるかわからず
「○日間有効」の見積書が
出せなくなっているのです。

それでも住宅会社・工務店各社は
金額不明のまま発注します。

なぜなら、木材を手に入れるためには
そうするしかないからです。

そうして発注しても
必ず工程通りに入手できるとは限らないので
工期変更にも合意してほしい
という話になります。

それくらい異常な状況が起こっているのが
ウッドショックなのです。
 
お客様に金額を提示するには
発注するしかないというわけですが、
発注するには契約していただく
必要があります。

年間数百棟・数千棟建てる大手ならともかく
私たち中小工務店は建てるかどうか
わからない段階で材料の調達はできません。
ご契約いただいてから
発注するのが基本です。

こうした事情で、
契約→木材発注→やっと金額がわかる
という流れになった結果、
お施主様に合意書をいただかなくては
いけなくなっているのです。



だからといって
合意書にサインするべきかどうか、
お施主様としては悩みますよね。

工期・金額が変更になる可能性に
納得できないなら
合意しない方がいい
でしょう。
 
ここまでに述べた通り、
工期と金額の変更を
ある程度許容していただかなければ
住宅会社は工事を請け負うことができない
のが現状です。
 
中には
「木材価格の変動リスクは
住宅会社・工務店が負うべき」
と考える方もいるでしょう。

契約を交わした以上、
その契約に則って工事を進めるのが
当たり前ですから、
その意見は至極当然です。

私たち住宅会社も、本来そうしたいんです。

ですが、数週間で
2割も値上がりしている現状で
そのリスクを負える会社は
ほとんどありません。

そんなことをしていたら、
いずれ倒産してしまいます。

家を建てた住宅会社が倒産してしまったら
それもお施主様にとっては
大きな問題ですよね。
 
お施主様を脅すわけではありませんが、
お施主様が納得できる価格で
いい家を建てたいと思っているのと同じく
私たち工務店も適正な価格で
長く住んでいただける家を建てたいと
思っています。
 
そして、その家のメンテナンスにも
末永く対応したいと願っています。

ウッドショックに便乗して値上げを企む
会社が絶対ないとはいいませんが
ほとんどの住宅会社・工務店は
ギリギリのところで負担できない部分を
お客様に協力していただくしかないと考え
合意書を用意しています
 
このようなウッドショックが
もたらした事態を許容できるなら、
合意書にサインしてください。

工期は遅れるかもしれませんし、
多少値上がりするかもしれませんが、
住宅会社・工務店は
しっかりと家づくりを進めていきます。
 



とはいえ、
お客様にもいろいろな事情があります。

工務店に不信感があるわけではないけれど
どうしても譲れない入居時期がある・
追加費用は支払えない
といったケースもあると思います。

そうしたケースを含めて、
納得できないなら
合意書にサインしない方がいいでしょう。

多くの会社で、それはイコール契約しない、
または契約はしたけれど着工できない
という結論になります。
 
繰り返しますが、
これは脅しではありません。

注文住宅は数千万円という
大きな買い物ですから、
ウッドショックに関係なく、
納得できないなら契約しないのが基本
です。

後悔しないように、
自分たちの気持ちを
よくみきわめて判断してください。

 

合意書にサインしようと思ったときの
チェックポイントは、
合意書の内容が一方的でないかです。
 
例えば、中島工務店の合意書は
「工期や金額の変更を提示できる」
という内容になっています
(※文言は多少違います)。

「提示できる」というところがポイントで
当社が一方的に提示した
工期延長や値上げに
お施主様が必ず応じる
という合意ではありません。

とはいえ、応じてもらえないと困る
というのが本音です。

それでも「提示できる」という
合意にとどめたのは、
納得していただけるよう
説明を尽くすという約束だからです。

お客様に不信感を与えることがないよう
しっかり根拠を示して説明します、
だから耳を貸してください
というのが中島工務店の合意書です。
 
このように一方的でない合意書であれば
どんな理由でいくら値上がりするのか、
どのくらい工期が延びるのかを
きちんと説明してもらえるので
納得しやすいというメリットがあります。

もしも提示された合意書が
「住宅会社・工務店が提示した
工期延長や値上げに応じる」と
断定しているようでしたら、
サインするかどうかは
慎重に考えた方がよい
でしょう。
 
ただし、中島工務店のような
説明と合意を前提にした合意書には
ごね得が生じる恐れがあるという
デメリット
もあります。

工務店の説明に対して「納得できない」と
主張し続けたお施主様と
合意に応じたお施主様で
結果に差が出る可能性が0ではありません。

そんな不公平が起きないように努めますが、
絶対に公平な結果を
約束することはできません。

合意書にサインするかどうか
判断するときには、
ほかの人と比べるのではなく、
自分が納得したら合意するという
心構えを持っていただきたいと思います。
 
もうひとつ注意していただきたいのは、
合意書へのサインを依頼してくる
住宅会社・工務店のスタッフの人柄に
惑わされない
ことです。
 
家づくりは住宅会社・工務店と
二人三脚で取り組むものですから、
契約に至るまでに親しい人間関係が
できていることが多いはずです。

でも、合意書の内容を決めるのは
その人ではありません
(その人が社長さんでない限り)。

合意書については「いい人だから」と思わず
文面をよく見て判断してください。




合意書にサインしないと判断したときには
この先1年程度は家は建たない

考えてください。

合意書を必要とする住宅会社・工務店は
合意書なしでは実質的に着工しません。

ここまでに述べた通りの事情ですので、
もし契約済でも材料の調達を見合わせる
→着工しないという判断は十分あり得ます。
 
そしてウッドショックは
1年程度は続くと考えられています。

もちろん先のことはわかりませんし、
いろいろな立場の人たちが
この事態を解消するために
力を尽くしていますので、
思ったより早く落ち着くという
可能性もあります。

逆に、1年以上続く恐れもあります。
ただ、今のところ短期間で供給が間に合うと
予測している人はいませんので、
工期にかかる数カ月を考慮すると
1年以内に入居できる可能性は
ほぼなくなるでしょう。

繰り返しになりますが、
だからといってサインすればいい
というわけではありません。

ご自身が納得できるか、
十分考えて判断してください。



すべての住宅会社・工務店が
合意書を交わすわけではありません。

合意書を交わさず着工する
住宅会社・工務店ももちろんあります。
 
では合意書がなければ
値上げも工期延長もないのかといえば
当然あり得ます。

大量に木材の在庫を抱えていたり、
年間契約等で優先的に仕入れを確保している
一部の会社を除けば、
ウッドショックの影響は甚大です。

実際の仕入れで価格が高騰していたり、
予定通りの時期に仕入れられなければ
必ず費用や工期に影響します。

このときにどうするかは
住宅会社・工務店しだいですが、
合意書なしでも値上げや工期延長を
打診してくる会社はあるでしょう。
 
住宅会社・工務店から
契約書通りの内容で
木材を確保できているという
明確な説明がない限り
「うちは合意書を求められていないから
大丈夫」とは思わず、
工事の途中で値上げや工期延長が起こる
可能性がある
と考えておきましょう。



しつこいようですが、
住宅会社・工務店も望んで
合意書にサインを
求めているわけではありません。

世の中では、合意書によって
お施主様と住宅会社・工務店の信頼関係に
ひびが入ってしまう残念なケースも
起こってしまっているようです。

もちろん、お施主様が悪いわけでは
決してありません。

その住宅会社・工務店の説明が
足りなかったのかもしれませんし、
十分説明しても受け入れられない事情が
あったのかもしれません。
 
ウッドショックは
私たち住宅会社にとっても
経験したことがない事態です。

十分な対応ができないケースも
あると思いますが、
それでもお客様の大切な住まいを
つくらせていただく以上、
説明を尽くす責任があります。

家づくりはお施主様と住宅会社の
パートナーシップで成り立ちます。

お客様はしっかりと説明を聞いていただき
納得できるかどうかで合意書に
サインする・しないを判断してください。