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家づくり

ウッドショックの背景とアドバイス

住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話しするブログ。

今回のテーマは
「ウッドショック」です。
※2021/6/4 一部情報を追加しました。


2021年4月、
当社が把握している範囲ではありますが
杉や桧など国産建築用材の価格が
2~3週間でおよそ2割も高騰
しました。

国産材市場に携わっている人からは
「木材が時価になるなんて」と
驚きの声が上がっています。

そんなことが起こっている原因が
ウッドショック。

ウッドショックとは、
輸入材の供給不足に端を発し、
国産材を含む建築用材の供給が
不安定になって
価格が高騰している状態
です。


◎2021年5月末時点で把握している
 業界事情【随時追記】
※この記事は4/27に最初にアップしました。


・森林組合の木材は契約先
 (年間契約などをしている取引先)への
 出荷を優先しており、
 なかなか市場へ出てこない。
 出たものは高額。
・市場では木材価格が
 3月以前と比べて2~5割高。
・大手製材メーカーの在庫が
 7月頃になくなるとの情報あり。
 ただし大手は3カ月単位で値決めするため
 市場に応じた価格での入荷はあり得る。
・合板は特殊サイズが納期未定。
 一般的な3×6尺のものは問題なし。
・レッドシダー、ホワイトウッドなど
 主要輸入材の価格は
 ウッドショック前の2倍へ。


ウッドショックのせいで
着工が遅れるなどの影響も出始めていて
ネット上ではお施主様の
「今は契約を見合わせた方がいい?」
といった相談も見受けられます。

今回はこのウッドショックの背景と
今後の見通し、
お客様に対するアドバイスをまとめました。

家づくり検討中のお客様に対する結論は、
ウッドショック下で建てるメリットは
一切ないから急がないなら様子見を。

ただし「いつまでに建てたい」という
期限があるならできるだけ早く
契約した方がいい
です。

詳しくは本文をご覧ください。

また最後には、
中島工務店が直面している現状を
率直にお話ししています。

ウッドショック下の工務店の
実例のひとつとして
ご覧いただければと思います。




この記事でわかること
□ ウッドショックが起こった背景
□ 国産材の供給を増やせない理由
□ 今後の見通し
□ 家づくり計画中&契約済の
 お客様へのアドバイス
□ 中島工務店の現状



 
目次


1.ウッドショックの背景①
  建築用材の半分が輸入材

2.ウッドショックの背景②
  アメリカの木材需要が急増

3.ウッドショックの背景③
  世界的なコンテナ不足

4.国産材の供給を増やせない理由①
  国内林業の減産体制&補助金事情

5.国産材の供給を増やせない理由②
  林業のしくみ

6.国産材の供給を増やせない理由③
  乾燥機の限界

7.ウッドショックで木造住宅は高くなる?
8.今後の見通し
9.家づくりを検討中のお客様へ
10.中島工務店の事情
  所有林の伐り出しは困難




 


ウッドショックは
輸入材の供給不足から起こっていますが
その背景にはそもそも
日本の建築用材の半分が輸入材
だという事情があります。
 
林野庁の資料によると、
令和元年(2019年)の
製材用材の自給率は51.0%

2020年の木造住宅着工数は約48万戸なので
おおざっぱに言って
およそ24万戸分が輸入材でつくられていて
その木材が十分供給されていない
ということになります。

足りないベイマツ(おもにカナダ産)
などの代わりに、
多くの会社が杉や桧といった
国産材を使い始めました。

買う人が増えたからといって
国産材の供給量が急に増えたりはしないので
もともと国産材を使っていた
住宅会社・工務店と
「限られた国産材」を奪い合うことに。

このように輸入材が不足→国産材を代用→
国産材も不足
という流れで、
ウッドショックは起こってしまいました。

 

では、なぜ輸入材が不足したのかというと
アメリカで木材需要が急増したのが
理由のひとつです。

新型コロナの影響で経済が滞ったのは
アメリカも同じでしたが、
その対策として政策金利が実質0%という
低金利になりました。

これにより住宅ローン金利も大幅に低くなり
たくさんの人が家を建て始めたのです。
 
家を建てるには木材が必要で、
これまで日本に輸入されていた木材が
アメリカで使われるように
なりました。

日本でも必要なのに
どうしてアメリカが優先されるの?
と思いましたか。

理由は、アメリカの方が
効率よく販売できるから。

日本向けは品質基準などが厳しいのですが
アメリカはそこまで厳しくありません。

品質が多少よくない木材でも
まとめて買ってもらえるんですから、
同じ値段なら売りやすい方に売りますよね。

こうして「限られた輸入材」を
アメリカと奪い合うことになり、
アメリカに優先的に供給される事態が
起こりました。

もともと日本で建築用材に使われる
針葉樹の輸入量は、
アメリカや中国の輸入量の
1割ほどしかありません。

より市場が大きく、高く買ってもらえる
アメリカや中国が優先されるのは
当然といっていいかもしれません。



カナダから輸入できないなら
ヨーロッパから運べば?
と言いたいところですが、

確かに欧州材をたくさん使っている
住宅会社もありますが、
そこでもウッドショックは起こっています。
背景には世界的なコンテナ不足があります。
 
新型コロナの影響で、世界的に
海運業が一時大幅に落ち込みました。

各国の経済停滞、ロックダウンなどにより
荷物の取扱量が大幅に減少し、
船会社の多くがコンテナを
返却・売却する事態に。

幸いヨーロッパや中国は
いち早く経済が持ち直し始めましたが、
だからといってコンテナを
急に増やすことはできません。

結果的に海運が
コロナ前の状態に戻っておらず、
ヨーロッパの木材は
陸路で運べる地域に
供給されるようになりました。

もともとヨーロッパでは
EU圏内への供給を優先していますが、
EU圏内に加えて中東などへの輸出が
増えているそうです。



ウッドショックのおおまかな背景を
お話ししてきましたが、
「需要が増えて価格が高騰してるなら
国産材の出荷量を増やせばいいのに!」

と思いませんか。

普通は需要が増えたら
供給も増やすのが商売です。
見方を変えれば”稼ぎ時”ですもんね。

ところが、国産材市場には
そうはいかない事情がいくつかあります。

ここからは山や製材業者と密接に連携した
家づくりをしている中島工務店が
関係者に聞いたお話の一部をご紹介します。
 
国産材の自給率は上昇傾向ではありますが
大幅な伸びが期待できるというほどの
状況ではありません。

そのため、国内林業全体としては
減産体制
にありました。

予測される需要に合う程度の量を
供給するよう調整している
ということです。
 
日本の山は急峻で、
国産材を伐り出すには
かなりコストがかかります。

木材の自給率が下がったのも、
1964年の木材輸入自由化以降、
安価な輸入材との価格競争に負けたのが
理由です。

実際、国内林業は多くが
補助金頼みで経営しています。

補助金なしで伐り出しても赤字になるため
補助金を利用しながら
あらかじめ決められた量を
伐り出しているのが実情
です。
 
つまり、需要が急に増えても
補助金がなければ赤字だから
伐り出せないというわけです。

これが国産材の供給量を
すぐに増やせない理由のひとつです。




そうはいっても国産材が高騰してるなら
補助金なしでも伐り出せるんじゃないの?

となりますよね。

ところが、これもそう簡単ではないんです。
 
先ほどお話しした減産体制や補助金など
国内林業のしくみを支えているのは
各地の森林組合です。
(その上位団体を含め組織化されています)

森林組合は森林所有者=山主(やまぬし)が
集まった団体です。

一方、山から木を伐り出すのは
杣(そま)と呼ばれる人たち、
いわゆる林業に従事している人たちです。

山から切り出した木は
森林組合が運営する原木市場で
競りにかけられるのが一般的です。

現在はそこで高値で
取引されているわけですが、
その売上は森林組合を通じて
山主に還されます。

木の売り主なのだから当然です。
 
しくみがわかってきましたか?

そうです、木材が高騰して
その売上が届くのは山主であって
杣や林業会社ではありません。

ウッドショックは
木を伐り出す人たちにとって
“稼ぎ時”だとは言い切れない
のです。
 
このように言うと
森林組合や山主が悪く
聞こえてしまうかもしれませんが
森林組合は長く低迷する
国内林業を支えてきた重要な団体です。

山主も伐ってもお金にならない
森林に手をかけて、
日本の山と林業を守ってきました。

いま一時的に
価格が高騰しているからといって、
それよりはるかに長い期間
苦しい思いをしながら
国内林業を守るためにつくってきた
しくみを簡単に批判することはできません。

国内林業が成り立たなくなってしまったこと
自体が、ウッドショックより
ずっと根深い問題なのです。
 
とはいえ、こうした事情も
簡単に供給量を増やせない理由の
ひとつではあります。




それでも杣や林業会社に
お金を払えば伐り出すことはできます。

もしかしたらそんなことを始めている
山主や森林組合もいるかもしれません。
が、これも簡単ではありません。

木を伐り出して製材できたとしても
乾燥機に限界
があります。
 
建築用材は製材後、乾燥が必要です。

一定レベルまで乾燥していないと、
建築後に木が収縮したり曲がったりして
不具合が起きるからです。

乾燥方法には乾燥機を使う人工乾燥と
ストックヤードに積んで
太陽と風で乾燥させる天然乾燥があります。

天然乾燥には少なくとも
1年以上かかりますので、
ウッドショックのような短期需要に対して
急に供給量を増やすことはできません。

一方、人工乾燥の場合は
乾燥機の数と容量に限界があるため、
こちらも一定以上の量は
乾燥できないのです。

人工乾燥にかかる期間は
温度や機械によって数日~数週間ですが
乾燥機も需要に応じて
必要な台数を準備しているので
普段扱わない量を急に乾燥する余力は
ほとんどありません。
 
よって、乾燥できる以上の量を
製材することも伐り出すこともない

という結論になります。

やはり急に供給量を増やすのは
難しいといえます。
 
いろいろ説明してきましたが、
実は一番大きな理由は
「この需要は一時的」と
多くの林業関係者が
思っていること
かもしれません。

昨年のマスク不足のときの騒動のように
一時的な需要不足を乗り越えたら
沈静化すると多くの人が考えています。

だとすると、一時的な需要のために投資して
供給量を増やすことはありません。
やはり国産材の供給増は難しいでしょう。




では、ウッドショックで
木造住宅の値段は高くなるのでしょうか?

答えは、ウッドショックだけでは
影響は大きくないけれど
ほかの建材も高くなっているため、
全体として値上がり傾向
です。
 
一般的な木造住宅の見積もり金額のうち
木材が占めるのは1割前後。
2,000万円の家で200万円ほどです。
 
その木材価格が2割上がったとすると
40万円アップです。

小さな金額ではありませんが
2,000万円に対しては
すごく大きいわけでもありません。

40万円ならどこか削れば
減額できないこともありません。
 
しかしながら、木材以外の建材や設備も
値上がりしています。
住宅設備は4月に価格改定があり、
値上がりしました。

また原油価格高騰を受けて、
鉄製品を中心に様々な建材が
値上がりしています。

結果的にあらゆる部材・
建材・設備が高くなり、
建築費全体が高くなっているのが
現在の状況です。

今後も下がることはまずないと
考えられます。



ウッドショックがいつまで続くかは
なんともいえません。

輸入材の問題である以上、
世界経済の動向にも左右されるため
簡単には予測できません。

ですが、木材先物取引の市場が
高騰していることからも
しばらくは続くと考えるべきでしょう。
 
今回の件を受けて、
大手ハウスメーカーなどは
木材の仕入れ先の分散を図る
可能性があります。

分散先に国産材の供給元が含まれていれば
工務店にも影響が及ぶ可能性がありますが、
現時点ではなんともいえません。

「年間○棟建てる」と予測できる工務店なら
商社やプレカットと一定量の供給を約束する
しくみを採用するかもしれません。

年間の買付量を約束する代わりに
優先的に確保してもらうしくみです。

実際そういったしくみを採用している
工務店は今のところ
ウッドショックの影響を受けておらず、
当面必要な木材を確保できています。

しかしながら日本の大半を占める
中小工務店はこうしたしくみを
採用できるほどのチカラがありませんので
やはりしばらくは不安定な状態が続く
と考えられます。



現在家づくりを検討中のお客様には、
できるだけ早く契約して
住宅会社・工務店に
木材を確保してもらった方がいい

とおすすめします。

こう言うと
「そんなこと言って契約を急がせている」
「煽って契約させようとしている」
と思われるかもしれませんが、
木材の供給不足は実際に起こっています。

必ず数百棟、数千棟建築する
大手ならともかく、
年間数棟から数十棟の私たち工務店は
建てるかどうかわからない時点で
材料の調達はできません。

ご契約いただいてから調達するのが
基本です。

先ほどお話しした通り、
設備や建材も軒並み値上がりしています。

少しでも早く調達した方が
価格を抑えられるのが現状です。

煽っているわけでも
脅しているわけでもありません。

「お子さんの入学までに」といった
期限があるお客様は、
早めに契約した方がいいでしょう。
 
一方、急いでいないなら
しばらく様子見してもよいと思います。

ウッドショック下の不安定な状況で
建てるメリットはありません。

ただ建材や設備は
ウッドショックとは無関係に
上がっていますので、
待てば待つほど少しずつ高くなるのは
やむを得ないと考えてください。
 
すでに契約済の場合、
構造や工法の変更がないか
住宅会社に確認しましょう。

ベイマツの梁を杉に変えた場合、
杉の方が強度が低いため
梁が大きくなるのが通常です。

もちろん問題ない強度に
設計変更されるはずですが、
気になる方はどのように変更されるか
確認しましょう。

中には材料変更によってやむを得ず
工法も変えるケースもあると聞きます。

構造や工法にこだわりがある場合は、
必ず確認しましょう。



2021年5月頃から、
ウッドショックによる合意書
話題にのぼるようになってきました。
 
木材仕入れが困難な状況により、
契約後に工期や金額の変更が
起こりうることに対する合意書です。

合意書にサインするべきか、
サインする場合のチェックポイントは?
といった点について
工務店の立場から率直に解説しました。

いま家を建てようと考えて方は、
こちらの記事もご覧ください。
ウッドショックの合意書



 

最後に、中島工務店の事情を
お話しておきます。

ウッドショック下の工務店の実情の
一例としてご覧ください。
 
中島工務店は
林産地・岐阜県加子母に本社があり、
地域材を使って地域の職人が建てる
産直住宅をつくっています。

地域の林業・製材関係者との連携も深く
自社プレカット工場を持つなど
山元(やまもと/材料を出す山に近い)の
会社です。

自社でも山を所有しており、
一般的な工務店に比べると
ウッドショックに対応しやすい
と思われることでしょう。
 
そのような期待に応えるべき
ところなのですが、
実際には当社も木材の確保に
苦心しています。

中島工務店は4月下旬時点で、
柱や梁などの大きな構造材は
十分確保できていますが、
間柱や垂木といった
小さな材料の確保が難しい

といった状況です。

「大きな材があるんなら
それを小さく加工すれば?」
と思われるかもしれませんが、
それも簡単ではありません。

一般的に製材業者には得意分野があり
大きな部材を挽く会社が所有する機械は
小さな部材の加工に適しておらず、
簡単には対応できません。

また小さな部材は細い木(小径木)から
とるのが通常なので、
大きな木材から加工すると
割高になってしまいます。

とはいえ、背に腹は代えられない
状況もありますので、
一部ではそんな試みも始めています。

ただその分はどうしても
費用が高くなってしまうため、
どんどん進めるわけにもいかないのが
実情です。
 
「山を持っているんだから伐り出せば?」
というご意見もあると思います。

それがそうもいかないのは、
やはり先ほどお話しした通り、
補助金がなければ伐ったら伐った分だけ
赤字になってしまうからです。

木材価格が高騰しているとはいえ、
補助金なしで伐り出せるほどの
価格ではありません。

加子母で木を伐り出せる
杣の数も限られており、
一時的な需要増加に応えるのは困難です。

現在は製材業者、プレカット工場等と
連携して木材確保に奔走していますが、
徐々に着工時期をお約束できない恐れが
出てきています。
 
ウッドショックの実情と対応については
今後も状況に変化があれば
発信してまいります。

お客様には落ち着いて
住宅会社・工務店の情報や方針を聞きながら
それぞれのご家族の事情に応じた
家づくりの進め方を
相談していただければと思います。