プロが教える家づくりのヒント HINT

設計

断熱等級5・6・7新設で
新築住宅はどう変わる?

住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話しするブログ。

今回のテーマは
「断熱等級5・6・7」です。


2021年12月国土交通省から
断熱等級5の新設決定と
断熱等級6・7の新設に向けた
パブリックコメントの実施が
発表されました。

事実上、断熱等級7までの新設が
決まったわけで
これまでの断熱等級4とは
けた違いの断熱レベルを
国が推進
しようとしています。

断熱性能が高くなるのは
快適性や健康面でとてもいいことですが
当然これまでの断熱方法+α が必要になり、
コストアップも伴います。

快適になるのは嬉しいけど
高くなるのはちょっと・・・
って感じですよね。
 
断熱等級5・6・7とは
いったいどんなレベルで、
どんな断熱が必要で、
どのくらいコストアップするのでしょうか?

今回は中島工務店の仕様を例に、
断熱等級5・6・7、
それぞれの場合について
仕様変更の概要と建築費用について
検討してみました。

断熱性能について
よくある質問にもお答えしていますので、
ぜひ最後までご覧ください。




この記事でわかること
□ 断熱等級とは
□ 断熱等級5・6・7の最低室温めやす
□ 断熱等級5・6・7のUA値
□ 断熱等級6・7に対応する方法とコスト
 中島工務店の場合
□ 断熱性能についてよくある質問

 
目次


1.断熱等級とは
2.断熱等級4の家は暖かくない
3.断熱等級5・6・7の最低室温めやす比較

4.断熱等級5・6・7のUA値

5.HEAT20と断熱等級
6.断熱等級6・7を実現するには
  中島工務店の場合

7.①断熱等級6を実現するには
8.②断熱等級7を実現するには
9.断熱等級7は必要か
  中島工務店の見解

10.断熱性能についてよくある質問


 



断熱等級は住宅性能表示制度で示される
住宅性能のひとつです。

住宅の品質確保の促進等に関する法律
(品確法)にもとづいて質のよい住宅を
たくさんつくるために規定され、
断熱性能のほかにも耐震性や維持管理など
10項目に等級を設けて
住宅取得者にわかりやすく伝えるものです。

「等級」で表すわかりやすさから
各住宅会社が自社の性能を伝えるためにも
よく使用されています。

断熱についてはこれまで
等級1~4が設定されていました。

より高い基準として等級5~7を
追加しようというのが今回の動きです。



これまで断熱等級は「4」が最高で、
住宅会社の中には
断熱等級4を「最高等級」と
アピールする会社もありました。

最高等級なのは間違いありませんが、
実は断熱等級4の性能は
決して高くありません。

わかりやすくするために
最低室温のめやすを見てみましょう。
 
東京・名古屋・大阪など西日本の
太平洋側のほとんどが含まれる6地域で
断熱等級4は冬の最低室温が
おおむね8℃を下回らない
ことを
基準にしています。

暖房なしで朝起きたら
室温8℃…
あったかいとは言えませんね。
いや、寒いです。
参考までに諸外国の基準と
比べてみましょう。

イギリスでは最低室温を
18℃以上に保つことが
法令で規定
されており、
保てない賃貸住宅には
改修・閉鎖・解体といった
厳しい命令が下されることもあります。

ドイツも18℃以上が基準で、
賃貸契約書に記載されたりするそうです。

アメリカでも州によって
15~20℃程度
の最低室温基準があります。

ちなみになぜ18℃めやすが多いかというと
16℃を下回ると高齢者に呼吸器疾患や
心血管疾患などの健康リスクが増える

という研究結果があるからです。

日本の最低室温のめやす8℃、
すなわち断熱等級4は
健康に害があるレベルだったんです。

 

そういうわけで遅ればせながら
「これではだめだ!」と
新設されることになったのが
断熱等級5・6・7です。

断熱等級5・6・7の
最低室温のめやすは次の通りです。
(6地域の場合)
これからの最高等級7で
おおむね15℃を下回らない、
これなら朝起きて暖房なしでも
凍えるほどではなさそうです。

それでも欧米の基準18℃に届かないのが
なんともいえないところですが・・・

等級5・6・7が必要とされる理由は
よくわかりましたね!

 

ここまでは体感的にわかりやすくするために
最低室温のめやすでお話してきましたが、
実際の住宅設計では
断熱等級はUA値で規定されます。
 
UA値とは外皮平均熱貫流率で
[建物が損失する熱量の合計]÷[外皮面積]

で求められます。

難しそうに聞こえますが、
要はその家が熱をどのくらい
逃がすか・逃がさないか。

どんなにがんばって暖房しても
壁や屋根、窓からその熱は
ある程度逃げてしまいます。

それがどのくらい逃げるかを示したのが
UA値というわけです。

面積で割り算することで
1平方メートルあたりの熱損失量を
示しています。

逃げる熱の量が小さいほど断熱性能が高い、
つまりUA値は小さい方が断熱性能がいい
ということになります。

断熱性能はUA値で示され、
UA値が小さいほど性能が高い

と覚えておきましょう!
 
ということで、
断熱性能4~7のUA値を
確認していきましょう。
(6地域の場合)

等級6で等級4の半分程度、
等級7だと3割以下になりました。

めちゃくちゃ単純にいうと、
断熱性能は
断熱材の熱伝導率 × 断熱材の厚み
で決まります。

つまり、同じ熱伝導率の断熱材を使うなら
厚みを増やさなくてはならず、
等級6では等級4の2倍、
等級7なら3倍の厚みが必要
ということになります。

断熱材の種類を変えないなら、
壁の厚みが現在の2~3倍になる!
なんてことが起こります。

もちろんお値段も2~3倍に・・・

これをどう乗り越えていくかが
住宅会社のこれからの課題のひとつです。

 

上の表では「参考水準」として
省エネ基準、ZEH、HEAT20を挙げました。

断熱等級を決めるにあたって、
それらの基準が参考にされているからです。

省エネ基準とZEHは国の制度で
それに従った断熱等級が
設定されるのも納得です。

ではHEAT20とは何なのでしょう?

HEAT20は民間基準。
一般社団法人
20年先を見据えた日本の高断熱研究会
が設定した基準です。

どういう団体かは
名前を見ればわかりますね。

坂本雄三東京大学名誉教授、
岩前篤近畿大学教授など
日本の断熱研究の第一人者が集まって
設立された団体で、
住宅の高断熱化に力を注いできました。

中島工務店もこの活動趣旨に賛同し、
現在、断熱性能のめやすを
HEAT20 G1相当としています。
※中島工務店の住宅性能はこちらから。
 
ほかにも多くの先進的な工務店が
HEAT20を断熱のめやすとして採用し、
G1~G3を目指して取り組んできました。

今回の断熱等級5・6・7新設は
民間基準を国が公式な基準として
認めたケース
です。

それだけHEAT20と
それを支持する工務店の活動が
未来の住宅の姿に敵ったものだった
ということでしょう。

これからは各住宅会社が
断熱等級5・6・7のどこをめやすにし
どんな対応をしていくのかが
焦点になってきます。

大手ハウスメーカー各社も2022年中に
方針を打ち出してくると思いますので
よく見ておきましょう。

 

繰り返しますが
断熱性能が高くなるのは、
快適性・健康面からとてもいいことです。

ただし、設計・施工やコストの面で
考えなくてはいけないことが
山ほどあります。
 
中島工務店の場合を例に、
断熱等級6・7を実現する場合に
どんな対応が必要で
どのくらいコストアップするのかを
検討してみました。
 
中島工務店の断熱性能は
現在G1相当、UA値0.56

めやすです。
(6地域の場合)

これは断熱等級5のUA値0.60より性能が高く
すでに断熱等級5はクリアしています。

よって断熱等級6と7について検討します。

なお断熱等級6=G2以上については
あくまで机上の検討で、
実際に施工した場合には
ここにない問題が生じる恐れもあることを
ご了承ください。
(逆に意外と苦労しない可能性もあります)

またどのくらいコストアップになるかも
試算していますが、
住宅資材はどんどん値上がりしています。

ここでの試算はあくまで現在の価格ベースで
実際に建てるときには
それ以上に高くなっている可能性が
かなりありますのでご注意ください。



断熱等級6、すなわちG2レベルのUA値は
以下の通りです。

中島工務店の施工エリアは
4地域~6地域にわたっているため
その範囲でどのように対応するか
考えましょう。
結論からいうと次の通りです。

断熱等級6=G2達成に必要なこと
①6地域では現状の仕様でクリアできる
②4・5地域ではサッシの性能アップと
 天井断熱材の製品変更または厚み横が必要

6地域の場合
6地域のG2=0.46は
現在の4地域のG1と同じです。

現在のまま建ててもクリアできます。
特に変更なし、
コストアップもありません。

4・5地域の場合
4・5地域では0.46~0.48→0.34と
レベルアップするので仕様変更が必要です。

現在、熱還流率1.78W/㎡K程度のサッシ
標準採用していますが1.03W/㎡K程度
グレードアップしなくてはいけません。

同時に天井断熱材を熱伝導率が低い製品に
変更するか、分厚くする必要があります。

コスト的には30坪総2階建ての家で
約60万円アップ~
を見込みます。



断熱等級7、すなわちG3レベルのUA値は
以下の通りです。
いっきにUA値が小さくなりました。
特に6地域!!!!
もはや4地域と変わりません。
 
4地域って宮城とか山形とかですよ?
それと名古屋が同じってありえますか・・?
 
それはともかく、
4地域でも6地域でも
ほとんど同じUA値が求められるので
大きな問題となる6地域について
考えていきましょう。

6地域でG3をクリアできれば
ほかは何の問題もありませんから。

断熱等級7=G3達成に必要なこと
等級6の天井断熱仕様変更に加えて
①壁に90~100mmの付加断熱
②サッシの性能アップ

まずは壁に付加断熱が必要です。
現在、壁は充填断熱で柱と柱のあいだに
105mmのグラスウールを施工しています。
 
その外側にさらに90~100mmの断熱材を
施工しなくてはいけません。

2回断熱材を施工するので
当然手間も増えます。
 
さらにサッシは現在国内で手に入る
最高レベルの断熱仕様が必要です。

熱還流率1.00W/㎡Kを下回るような
高断熱サッシです。
 
以上を踏まえたときのコストは
30坪総2階建ての家で
約250万円アップ~
となります。

ちなみに当社住宅展示場・長久手Studioが
その仕様で実物模型もありますので、
ご興味がある方はご来場ください。



しつこいですが断熱性能は高いに
越したことはありません。

とはいえ、今みてきたように
断熱性能アップには
コストアップが伴います。

必然的にコストをかけるだけの価値があるか
=費用対効果を考えざるを得なくなります。

今のところ、中島工務店は標準採用は
断熱等級6まで
と考えています。

世の中には等級7=G3レベルの家を
コストを抑えて実現している
工務店もあります。

その努力と成果は素晴らしいと思いますが
私たちは住まいに大切なのは
断熱だけではない
と考えます。

断熱性能だけを追求すると決めてしまえば
コストダウンも可能です。

ほかの部分のコストを徹底的に削って
断熱性能にだけ
お金をかければいいのですから。

でも、中島工務店には
無垢の木・自然素材の心地よさ、
手づくりの建具・造作家具の
美しさや使い勝手、
注文住宅ならではの唯一無二の設計など
断熱以外にも大切にしたいものが
たくさんあります。

だから、私たちは断熱等級7の実現は
次のステップとして見据えつつ、
引き続き長く心地よく暮らせる家づくりを
考えていこうと思います。



最後に断熱性能について
よくいただく質問に答えていきます。

Q:断熱等級は高い方がいい?
A:コストの問題を別にすれば
断熱性能は高い方が快適で
健康にもいいです。

とはいえ予算には限りがありますので
今後数十年暮らす家で
何を大切にしたいかを考えて
どのくらいの断熱性能を目指すのか
判断しましょう。

Q:断熱性能アップは体感できる?
A:できます。
特に4地域など寒い地域で
断熱等級3以下の古い住宅を
5以上のいまどきの住宅に建て替えたら
家の中でダウンを着ていたのが
Tシャツで過ごせるようになったくらいの
違いが感じられます。

ただ等級5以上になると違いは
わかりにくくなります。

名古屋など暖かい地域では
個人差はありますが等級6と7の違いが
体感できる人はあまりいないでしょう。

Q:断熱性能が上がれば光熱費は下がる?
A:下がります。
気密の問題はありますが
冬はもちろん夏も
エアコンが効きやすくなるので快適だし
電気代も下がります。

ただし人間は慣れる生き物です。
入居当初はあったかい!と言っていたのに
慣れるにつれて寒く感じ始めて
結局また光熱費が高くなった

なんて話はよくあります。

Q:光熱費(ランニングコスト)が下がれば
断熱性能アップのイニシャルコストも
元がとれるのでは?
A:光熱費は使い方によるので
一概にはいえませんが、
年間20万円だった光熱費
(総務省家計調査によると
2人以上世帯の月間光熱費は約16000円)

が半分になったとしましょう。

断熱等級6なら60万円ほど
コストアップなので6~7年で
元がとれますね。


断熱等級7だと
250万円もアップしているので
元をとるには25年ほどかかりそう
です。

もちろん住宅会社によって
どのくらいコストアップになるかは
変わります。
 
断熱は光熱費削減だけが
目的ではありませんが
気になる方はしっかり
計算してもらうのがおすすめです。

Q:全館空調と高断熱住宅は相性がいい?
A:相性はいいです。
ただし機械には必ず
メンテナンスが必要ですし
ほとんどの場合、
住宅そのものの寿命より短いです。

全館空調の設置には
100万円以上かかるので
太陽光発電よりさらにコスパは悪いです。

断熱材による性能アップなど
基本性能を重視し、
設備はメンテナンスや耐用年数も考えて
慎重に導入
した方がよいでしょう。