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家づくり

長期優良住宅法改正

住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話するこのブログ。

今回のテーマは
「2022年10月長期優良住宅法改正」です。

長期優良住宅制度が創設されたのは
2009年(平成21年)。

その名の通り、2~3世代にわたって
住み継げる優良な住宅ストックをつくろう
という考え方のもとに始まった制度で
2022年3月末時点で累計135万戸以上が
長期優良住宅に認定されています。

近年は新築戸建て住宅の4分の1が
長期優良住宅認定を取得していて
中島工務店でも長期優良住宅を
標準としています。

この制度には優良な住宅ストックの
流通を促す目的もありますから
これからますます認定数が
増えていきそうですね。

そうした中、2022年10月に
長期優良住宅の法改正が施行されました。

今回は長期優良住宅新基準のうち、
木造戸建て住宅に関わる部分について
解説していきます。

おもなポイントは3つ。
①省エネの新基準
②耐震の新基準
③既存住宅の認定制度新設

です。

これから家を建てる人は①と②に、
中古住宅の売買を検討している方は
③に注目してください。

なお、くわしくは
国土交通省のこちらの資料
ご参照ください。




この記事でわかること
□ 2022年10月からの長期優良住宅
 省エネ新基準
□ 2022年10月からの長期優良住宅
 耐震新基準
□ 新設された既存住宅認定制度と注意点

 
目次


1.省エネ新基準
2.耐震新基準
3.新築戸建住宅における
  長期優良住宅法改正の影響

4.既存住宅の認定制度新設

5.既存住宅の認定取得メリットは?
6.長期優良住宅認定は取得した方がいい?

 


省エネの新基準は
次のように変更になりました。
※BEI=設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量
簡単にいうと
断熱性能はZEH基準になり、
これまでなかった
一次エネルギー消費量等級が
追加
されました。

こちらの記事でも取り上げましたが
断熱等級は5の上に6・7があります。

断熱等級5は従来に比べれば高いものの
先進的な工務店を中心に
さらに高い性能を目指す動きは以前からあり
それほど難しい水準ではありません。

一次エネルギー消費量等級は
電気・ガスなどの家庭で使用する
エネルギー量を測る基準で
あらかじめ決められた基準値に対して
設計上のエネルギー消費量が
どのくらい削減されているかを評価します。

ここには太陽光発電などで
創られるエネルギーは含まれません。

一次エネルギー消費等級6は
断熱等級5をクリアする程度の
断熱が施工されていれば
まずクリアできます。

※一次エネルギーとは電気・ガスなどに
加工されるまえの状態=石油、石炭などのこと。
家庭で使われる電気kWh・ガスMJなど
単位が違う最終エネルギーの消費量を
統一した単位で計算するために用いられるのが
一次エネルギー消費量。




断熱等級も一次エネルギー消費量等級も
従来から長期優良住宅認定を取得している
住宅会社・工務店なら問題ない水準なので
家づくり検討中の方が
それほど気に留めることはないでしょう。

なお、中島工務店は
HEAT20 G1=UA値0.56(6地域)が
めやすなので、
もちろん長期優良住宅の新基準を
クリアしています。


耐震の新基準は次の通りです。

耐震等級2以上だった基準が
耐震等級3が必須
になりました。

これは断熱性能向上などにより
木造住宅が重量化したことに対して
建物を強くするために改正されたものです。

住宅性能表示では断熱等級7まで
新設されたほか、
先ほど紹介したように
長期優良住宅の省エネ基準も
引き上げられました。

断熱材が分厚くなり重くなることにより
建物をより強くする必要ができて
耐震等級も高くなりました。

近年では耐震等級3を標準とする
住宅会社・工務店も多く、
中島工務店も耐震等級3が標準です。

長期優良住宅の基準が
耐震等級3になったことにより、
現在耐震等級2の住宅会社・工務店も
耐震等級3を標準にすることが
見込まれます。

長期優良住宅を標準としていない
住宅会社・工務店で建てる場合は
念のため耐震等級を確認しておくと
よいでしょう。



新築戸建住宅に関わる
長期優良住宅法の改正ポイントは
以上2点、省エネと耐震の新基準です。

今回の改正は
以前から長期優良住宅を建てていた
住宅会社・工務店においては
大きな影響はない
場合がほどんとです。

先ほど紹介した
断熱等級に関する記事にもある通り、
断熱等級4から5へのアップは
技術的にもコスト的にも
それほど大きな影響はありません。

耐震等級は2と3で
多少設計が変わってきますので
住宅会社・工務店によっては
設計の考え方やコストに影響する
ところもあるでしょう。
ですが、対応できないほどではありません。

今回の長期優良住宅法改正は
新築戸建住宅については
時代の変化に合わせて
平均以上の住宅会社・工務店が
すでに実現してきた基準に合わせて
アップグレードしたものだといえます。



より大きな変化だといえるのが
既存住宅の認定制度新設です。

従来、長期優良住宅は新築のとき、
または増改築したときにしか
認定を取得できませんでした。

だからわたしたちも
「新築のときにしか取得できないので
認定を取得しましょう」と伝えてきました。

それが今回、既存住宅でも
認定を取得できるようになったのです。

既存住宅の認定に際しては、
新築(または増改築)のときに
申請していたら適用されていた
基準に則って判断されます。

例えば2010年に新築した建物で
2022年に申請した場合、
2010年当時の長期優良住宅新築基準を
満たしているのが条件になります。

注意したいのが
新築(または増改築)時の基準を満たした上で
申請時点で著しい劣化が生じていない
ことが条件
になっている点です。

認定手続きに際しては、
書類審査のほかにインスペクターによる
現況検査が行われます。

インスペクターとは
既存住宅の調査の専門資格者です。

具体的な運用が
始まってみないとわかりませんが
インスペクターの調査によって
著しい劣化があると判断された場合は
認定を取得できない場合があります。


もうひとつ注意したいのが書類の準備です。
認定に際しては次のような
書類の提出が必要だとされています。

■認定申請書
■維持保全計画書
■設計内容説明書
■各種図面、計算書
■状況調査書
■工事履歴書  ほか

つまり新築時の設計図書一式が
保存されていなくてはいけません。


また新築時に
長期優良住宅認定を取得するための
各種計算をしていなかった場合、
改めて計算する必要があります。

計算は建築した住宅会社・工務店に
依頼することになりますが
改めて図面の確認から
始めなければならないため、
新築時に計算するより
費用が高くなるのが一般的です。

現在、長期優良住宅認定取得のためには
それ専用の計算や書類作成が必要です。

つまり新築時に認定取得していない場合は
まず計算もしていないので、
既存住宅で認定取得するなら
ほとんどの場合、
計算費用・書類作成費用・
インスペクター費用などが必要
です。



既存住宅で
長期優良住宅認定を取得するためには
おそらく30~50万円前後の費用がかかると
考えられます。
(インスペクターの調査内容によっては
もっとかかります)

そんなに費用をかけて
何のために認定を取得するのかというと
購入者を優遇するため、
売買時の価値を上げるためです。

新築でも長期優良住宅の認定を
取得していると
住宅ローン控除の枠が大きくなったり
登録免許税・不動産取得税・固定資産税が
優遇されたりします。

同様に長期優良住宅認定を取得した
既存住宅を購入するときに
住宅ローン控除の枠が
認定を取得していない住宅より
1000万円大きくなり、
フラット35・フラット50の
優遇金利もあります。


住宅ローン控除も優遇金利も
どちらも既存住宅の取得時が対象です。

つまり、
家を建てた人・住んでいる人ではなく
これから購入する人にとっての
メリットです。

国が認定する、
よりよい住宅を購入する人を
優遇することにより
よりよい住宅ストックを増やそう
というしくみです。

また、実際に運用されてみないと
わかりませんが
購入者にメリットがある中古住宅は
そうでない中古住宅より
価格が高くなる可能性があります。



新築の場合は、
やはり最初に取得しておきましょう。


今回の改正でもわかる通り、
長期優良住宅認定制度は
国の住宅施策の根幹のひとつだといえます。

認定を取得しておくことによって
今後もメリットがあるかもしれないので
取得できるなら最初に取得しておくのが
おすすめです。

既存住宅でも取得できるんなら
そのときでもいいんじゃない?と
思われるかもしれません。

が、実際にどのくらいの状態であれば
「著しい劣化がない」と
判断されるのかがわかりません。

取得費用も新築時の方が抑えられるので
可能なら新築時に取得しておきましょう。

既存住宅(中古住宅)の場合は、
まず住宅会社・工務店に
図面と書類で認定基準を満たしているか
判断してもらいましょう。


この段階で一定の費用が発生するので
売買に際して
その費用分の価値を付けられるか
(=売却金額に上乗せできるか)も
必ず確認しましょう。

基準を満たしていたら
インスペクターに現況調査を依頼して
申請へと進みます。

こちらはまったく新しいしくみなので
実際にどの程度認定がとれるか
わかりません。

築年数や立地条件、
どのくらいメンテナンスしてきたかによって
ずいぶん結果が変わりそうです。

わたしたち工務店も状況を見ながら
対応を考えていく段階ですので
はっきりとしたことはいえません。

しかしながら
優良な住宅ストックを増やす
という観点では意義のある制度です。
経過を見ながら上手に活用しましょう。