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設計

設計前に考えたいベランダのこと


 
住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話しするブログ。
 
今回のテーマは「ベランダ」です。
 
設計に先立って
お客様のご要望をお聞きすると
「ベランダがほしい」
と言われることがあります。

ところが詳しく打ち合わせを進める中で
「何に使いますか?」と尋ねると
「あれ???」と考えた末に
「いらないかも」となるケースが
ちらほら・・・。

一方で、当初予定していなかった
ベランダを「どうしてもほしい」
と言われて設計を考え直すことも。

そう!実際の生活の中で
ベランダをどう使うかを考えたときに
必要かどうかの判断が
変わってしまうことがあるんです。
 
ところがベランダは
窓や屋根とも関係が深く、
間取りやデザインにも関わるため
途中で変わると
設計に大きく影響することがあります。

というわけで、
今回はスムーズに設計を進める&
住み始めてから困らないように
ベランダについて考えてみましょう!
 
まずは住宅のベランダに関する規制を確認。

新築住宅設計時に
考えたいポイントをまとめます。

さらにアルミ既製品と造り付けの違い、
アルミベランダの取り付け方の
おもな3タイプをご紹介しましょう。

なお、厳密には
ベランダとバルコニーは
区別して扱われます。

ベランダは屋根あり、
バルコニーは屋根なし
とされることが多いですが、
この記事では両方を含めて
2階以上で建物から外に張り出した
屋外スペースをまとめて
ベランダと呼びたいと思います。



目次


1.ベランダの規制
  ①手すりの高さ

2.ベランダの規制
  ②床面積・建築面積への参入

3.設計のときに考えたいポイント
  ①目的

4.設計の時に考えたいポイント
  ②屋根・手すり

5.造作ベランダ
6.取り付け方別アルミベランダの種類
 



 


ベランダを考えるときに
押さえておきたい規制は2種類あります。
 
具体的に
「このようにつくらなくてはいけない」
というルールと、
どこまでが床面積や建築面積に含まれるか
という設計上確認しておきたいルールです。

まずはつくり方のルールですが、
ベランダには高さ1.1m以上の
手すりを設ける
こと
(建築基準法施行令第126条)。
 
造りに関する規制は実はこれひとつなので
これさえ守っていればOKです。
 
ただし自治体によって
より厳しい規制が
定められていることがありますので、
実際に建てるときには自治体および
管轄の確認検査機関にお問合せください。


 

 


もうひとつのルールは
延床面積や建築面積への算入に関すること。

これはベランダをつけるかつけないか、
どのくらいの大きさにするか
という判断に関わります。

具体的な規定を見ていきましょう。

延床面積については、
1.1m以上且つ天井の高さの1/2以上の場合、
奥行2mまでは床面積に含まない

(建設省住指発第115号)。

建築面積については、
高い開放性があれば
奥行1mまでは建築面積に含まない

(建築基準法施行令第2条1項2号を
わかりやすく編集)。

とされています。

建築面積の「高い開放性」は
床面積の「有効に開放されている」条件と
同じと考えてOKです。
 

なぜこれに気をつけておかなくては
いけないのかというと、
床面積は容積率、建築面積は
建ぺい率に関わるからです。
 
ちょっと専門用語が多いので、
確認しておきましょう。

延床面積:住宅全体の面積
2階建てなら1階の面積+2階の面積
建築面積:建物を真上から見たときの面積
(水平投影面積)
容積率:敷地面積に対する延床面積の割合
容積率=(延床面積÷敷地面積)×100
建ぺい率:敷地面積に対する建築面積の割合
建ぺい率=(建築面積÷敷地面積)×100

建ぺい率・容積率は
良好な環境を守るために
地域ごとに決められているものです。

例えば敷地面積50坪で
建ぺい率60%・容積率100%の
土地があるとしたら、
建築面積(≒1階部分の面積)30坪・
延床面積50坪までの家しか
建てられません。

建ぺい率・容積率が低いほど
庭など建物のない部分が大きくなるので
ゆとりが感じられる街並みになりますが、
住む人にとっては
建てられる家の大きさが
制限されることになります。

このときに、
ベランダは延床面積・建築面積に
参入しなくていい場合がある、
というのが先ほどご紹介した規定です。
 
つまり、
建ぺい率ギリギリまで建てたい!
というときにはベランダをなくすか、
開放性の高いベランダで
奥行2mまでにすれば
床面積に含まれないから
建ぺい率にも影響しないということ。

布団を干す程度のベランダなら
奥行1m足らずで大丈夫なので
あまり問題になりませんが、
「洗濯物をたっぷり干したい」
「広いベランダにテーブルとイスを置いて
くつろぎたい」といったときには
注意が必要です。

なお「高い開放性」がない場合は
奥行が何mであっても
床面積・建築面積に参入されます。

デザイン的な理由から
オープン過ぎないベランダを
つけたい場合もありますが、
そのときは床面積・建築面積に
参入される可能性が高くなるので
気をつけたいところです。


 


 

次に、設計に際して
お客様に考えてほしいポイントを
お話ししていきます。
 
最初に考えてほしいのは目的、
つまりベランダを何に使いたいのかです。

ベランダが必要かどうかは
住む人の使い方しだい。

なくては困る人もいれば、
まったく必要がない人もいます。

先ほどお話しした通り、
ベランダも建ぺい率などに
関わってくることがありますから
必要かどうか、
どのくらいの大きさがよいかなどは
適切に判断したいところです。

新しい家での暮らしをイメージしながら、
自分たちの暮らしの中で
どのように使うのかを
考えてみた方がよいでしょう。
 
特に注意したいのは
マンションなど集合住宅に住んでいた方。

集合住宅に長く暮らしていると
「ベランダはあるもの」と
思い込んでいることがあります。

「何に使いますか?」
「洗濯物を干したいです」
「1階に庭がありますよ。
洗濯機を置いている脱衣室も1階ですが、
2階まで洗濯物を持って上がりますか?」
「あ。上がりません。庭でいいですね」
コレ、よくあるやりとりです!
 
マンションと戸建では
生活動線がずいぶん変わります。

最近は脱衣室近くに洗濯物干し場
(室内の場合も室外の場合もあります)を
つくるケースも多くなりました。

洗濯物を干す目的で
ベランダが必要だと思っているなら、
どこに洗濯物を干すのが
自分たちにとって使い勝手がいいのか
考え直してみるとよいでしょう。

目的によって
ベランダの位置やサイズが変わり、
窓とのつながりや屋根の高さの調整が
必要になることもあります。
 
さらに間取りや外観デザインも
変わってきますので、
ベランダが必要かどうか、
何に使うのかはできるだけ
設計に着手する前に伝えましょう。



 


目的がはっきりしたら、
屋根や手すりについて考えてみましょう。

屋根が必要かどうかは、
目的によって
自ずと決まってくることが多いです。

洗濯物や布団を干すなら
屋根または軒があった方が安心ですし、
のんびりするのが目的なら
陽当たりがいいように
あまり大きな屋根は架けない方が
いいのではないでしょうか。

手すりは、目的に加えて
周辺環境との関係からも考えましょう。

周囲からベランダの中の様子を
見られにくいようにしたいなら
壁やパネル状の目隠しになるタイプに
した方がよいでしょう。
 
住宅密集地や幹線道路沿いなら
インナーデッキという方法もあります。
 
長久手Studioのインナーデッキ



風通しをよくしたいなら、
縦格子状の手すりなど
隙間が広いタイプがオススメです。

もちろん目隠しと風通しの
ほどよいバランスのものを選ぶのもアリ。

ベランダや手すりの形状は
外観デザイン全体に影響するので、
設計士のアドバイスを聞きながら
慎重に選びましょう。


 

 


ベランダには
既製品のアルミベランダと
造作ベランダがあります。

造作ベランダはアルミベランダに比べて
やや割高ではありますが、
サイズも材料もデザインも自由に決められる
というメリットがあります。
 
次の項目で
アルミベランダの取り付け方を
ご紹介しますが、
下の画像のような
吊り下げ型のベランダは
造作でしかできません。

ベランダの下に柱をつくりたくない
といった場合には
造作を選ぶことになります。
 

造作ベランダの両脇に袖壁をつけて、
下を軒下にした事例。
手すり部分に木を使えるため、
木の家らしさ出せるのも
造作ベランダの特長といえるでしょう。



 


既製品のアルミベランダは
取り付け方によって
おもに3種類に分けられます。

どれを選ぶか、
あるいは造作にするかは
用途やデザイン、構造上の都合によって
選びます。


①持ち出し型

柱を使わず、
ベランダを躯体で支えるタイプ。

建物の本体にベランダが
ペタっとくっついているような
見た目になります。

柱などがないためスッキリと見えますが、
強度上、奥行90センチ程度まで
という制限があります。
 




②屋根置き型
 
ベランダを屋根で支えるタイプです。
 
ベランダの下に屋根があれば
このタイプを選択できます。
 



③柱建型
 
ベランダを柱で支えるタイプです。
 
しっかりとした柱を建てられるので
3タイプの中で
最も奥行をつくることができます。
 



マンションに住んでいると
部屋の端から端まであるのが
当たり前のベランダですが、
戸建の場合は様々な選択肢があります。
 
住み始めてから
「ベランダなんていらなかった!」
あるいは
「ベランダがないから布団が干せない!」
といったことにならないように、
よく考えてみましょう。