付知川流域まるごと博物館(3)(流域全体をエコミュージアムに)

前回に続く流域まるごと博物館というこの構想は、地域に住む人たちの生活そのものが博物館なのですから、自分たち自身が素晴らしいと思えるものでなければなりません。こうしたエコミュージアムは、地元住民によって守り育てられてきた自然、歴史、産業、文化、交通機関、社会経済の動向などすべてが対象になり、その地域で受け継がれてきた自然や文化、生活様式を含めた環境を守りながら住み続けることが目的です。住民が参加して展示資料を現地保存し、運営しながら地域を見直し、その発展を目指すことこそ大切なのです。ところで近年、ミュージアムの舞台となる日本の農山村が、単にこれまで基幹産業であった林業を活性化する目的で取り組んだとしても、残念ですがその効果が期待できると信じている人はありません。その理由は、材価の低迷で林業が採算ベースに乗らないことや、環境を大切にする時代となって、天然林など価値の高い木材の伐採を好ましいと思う人がいなくなり、むしろ伐採しないで欲しいと思う人が圧倒的に多くなってきました。また、一方では木材が地球に優しい資源として、もっと利用しようという気運が高まっていることも確かです。このような中にあって、林業の振興は、木を伐ることの繰り返し施業ではなく、森林の持つ公益的機能を維持しながら木材を利用する、つまり一度に多くを伐採しない複層林や択伐などの抜き伐りによる技術が進んできています。そして、木材の需要が無制限に伸びることが林業を活性化するものではなく、農山村の振興にかえって逆効果となることも明らかになってきました。住宅が不足し安上がりの住宅を建てては壊すという時代から、長年利用されてきた在来工法による古い住宅建築が見直され、木材をもっと大切に使おうという時代になってきたからです。「もの」から「こころ」へと人々の思考や選択も変化し、真に豊かな生活や地域づくりを考えようとするようになって、私達が祖先から引き継いできたもともとの郷土が、いかに美しく快適な生活空間であったことに気付き始めたからです。このかけがえのない郷土を、誰かにそのあるべき姿を考えてもらい、建設させるのではなく、地域の人々によってその発展の行方を考えることが必要であることはいうまでもありません。森林、川、木材などこの地域の特色を生かし、エコミュージアムの理念を取り入れた郷土づくりを、付知川流域に限らず全国の農村で展開されるネットワークの実現を呼びかけたいと思います。
(中島工務店 総合研究所長 中川 護 )