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家づくり

離れの増築ってむずかしい?

住宅建築のプロが納得できる
家づくりのヒントをお話しするブログ。

今回のテーマは
「離れの増築」です。


子ども世帯のために
母屋の隣に離れをつくりたい、
母屋と別に
アトリエや書斎をつくりたいなど、
離れをつくりたいという
ご相談は珍しくありません。

敷地にもうひとつ
建物を建てるスペースがある場合、
わりと簡単に建てられそうと
思うケースが多いようです。

でも、実際に現地の状況を確認すると
建てられないとか敷地の文筆が必要

なんてこともあるんです。

また、建てられたとしても
希望通りの大きさや設備にはできないなど
母屋と同じ敷地の中に建てたいからこそ
難しくなってしまう様々な規制
があります。

今日は離れを建てようと思ったら
最初に知っておきたい各種規制について
お話しします。

なお、最初に大事なことを
お伝えしておくと、
離れを考え始めたら
とにかくまず建築士に

現場を見てもらってください。

これからお話しするような
様々な規制をクリアして
建てられるかどうかは
建築士にしか判断できませんので
いろいろ考える前に
まず相談するのが肝心です!




この記事でわかること
□ 用途上可分・不可分とは
□ 敷地の「分割」と「分筆」の違い
□ 建ぺい率・容積率など規制の内容



 
目次


1.ひとつの敷地にはひとつの建築物
2.用途上可分・不可分
3.敷地の分割または分筆

4.敷地と建築物に関する規制

5.まとめ


 

 

離れを考える上で
最初に知っておきたいのが
「敷地」のこと。

「敷地」は
建築基準法施行令第1条に
定義されています。


敷地
一の建築物又は用途上不可分の関係にある
二以上の建築物のある一団の土地をいう。



わかりやすくいうと
ひとつの敷地にはひとつの建築物しか
建てられない
という意味なんですが・・・。

一の建築物というのは
そのままひとつの建物という意味で、
用途上不可分の関係にある二以上の建築物
というところがポイントです。

仮に建物Aと建物Bがあるとして、
BがAなしでは意味をなさないときに
このAとBは用途上不可分とみなされます。
 
例えば、学校の校舎と体育館や
商店の店舗と倉庫は
いずれも用途上不可分と判断されます。

この用途上不可分というやつ、
離れを考える上では
さらに重要な意味合いがありますので、
次の項目で詳しくお話しします。
 
 

 

建築基準法に「離れ」という
用語はありません。

建築基準法施行規則に
「一戸建ての住宅」として
定義された建物があり、
これに該当せず、
一戸建ての住宅に付属して使用される
建物を「離れ」としています。
わかりにくいですね~。

しかも!
最終的に離れとみなすかどうかの判断は
ケースバイケースで、
自治体によっても判断が分かれます。

今回は愛知県の例規集に則って、
離れをカンタンに定義してみましょう
愛知県建築基準法関係例規集)。


一戸建ての住宅=
居室+水廻り3点セットがある建物
離れ=
居室+水廻り3点セットの一部がある建物
※もっとわかりやすく言えば
水廻り3点セットがそろっていない建物!


*水廻り3点セット:キッチン・トイレ・浴室



愛知県では水廻り3点セットが
揃ってないと暮らせない
(用途を満たさない)という判断のようで、
建築確認申請の際に
水廻り3点セットが揃っていれば
「一戸建ての住宅」、
どれか欠けていたら
「一戸建ての住宅に付属する離れ」と
判断されることが多いです。

世間一般では同じ敷地の中で
母屋と同じ敷地内に建てたら
どんな建物でも離れということが多いので
ちょっと感覚が違いますよね。

これを専門用語で用途上可分・不可分といい
水廻り3点セットが揃うと用途上可分、
どれか欠けていると用途上不可分

というわけです。
(だいたいの基準で、
最終的には個別判断ですが)

ここで、最初に出てきた
「ひとつの敷地にはひとつの建築物」という
建築基準法のルールが登場します。

用途上不可分の建築物=
水廻り3点セットが揃っていない離れ

一戸建ての住宅とセットで
ひとつの建築物とみなされるので、
母屋と同じ敷地の中に建ててOKです
(必ずしも建てられるわけではなく、
後述の諸条件をクリアしないといけない)。
 
用途上可分の建築物=
水廻り3点セットが揃っている
と、
小さな建物でも別の建築物とみなされて
ひとつの敷地の中には建てられないと
される
ことが多くなっています。

※愛知県の場合(実際には個別判断)


ここが希望する離れを
建てられるかどうかの最初の分かれ道で、
水廻り3点セット付きの建物を建てたい場合
用途上可分と判断されたら
敷地の分割または分筆が必要になります。

※自治体によって判断が分かれるのが
用途上不可分の条件、
すなわち「住むという用途を満たすために
水廻り3点セットが必要か」という点です。
愛知県を含む多くの自治体で
原則として3点すべて必要とされていますが
浴室は不要等とする自治体もあります。
詳しくは建築士または建築確認機関に
ご相談ください。



 

 

用途上不可分の離れ=
水廻り3点セットがそろっていない建物なら
母屋と同じ敷地内に建てることができるので
この項目は関係ありません。
次の項目へ進んでください。

一方、用途上可分と判断される
水廻り3点セット有の建物
(法律の運用上は「離れ」とは呼べない)
を建てたい場合、
「ひとつの敷地にひとつの建物」
というルールに則って
敷地を2つに分けなくてはいけません。

その方法として
敷地の分割または分筆があります。
 
分割と分筆の違いはこうです。

<分割>
建築確認申請上の手続き。
確認申請に提出する図面上で
敷地を2つ以上に分ける。
<分筆>
登記上の手続き。
元の敷地を2つ以上に分けて
それぞれの所有者を登記する。

※いずれも次に記載の諸条件(接道、建ぺい率など)を
クリアできる敷地でなければ手続きできません。



手続き的には分割の方が
分筆よりはるかに簡単ですし、
ほとんどの場合、
分割で対応できるでしょう。

分筆が必要になるのは、
おもに敷地が市街化調整区域の場合です。

市街化調整区域は都市計画法で定められた
「市街化を抑制する地域」
(都市計画法第7条)で、
この地域では原則として
新たに家を建てることはできません。

水廻り3点セット有の建物を建てるには
元の敷地を分けなければいけないですが、
市街化調整区域ではその際に
分割ではなく分筆が必要とされるケースが
ほとんどです。
※具体的な運用は自治体によって異なる

市街化調整区域では
そもそも建築が認められるとは限りませんし
手続きも複雑ですから、
とにかく専門家に相談するところから
始めるのがよいでしょう。



なお、市街化調整区域でなくても
新しく建物を建てる敷地だけを担保に
融資を受けたいときには
分筆が必要になります。

分筆せずに融資を受けることもできますが、
その場合は母屋が建っている土地を含めて
登記上1筆の敷地すべて、
つまりもとの敷地全体に
抵当権が付いてしまうので注意が必要です。

また、もとの敷地が2つ以上の道路に
面している場合、
分筆した方が固定資産税の節税に
つながるケースがあります。

どうすると有利になるかは
個別のケースによりますので、
詳しくは住宅会社の営業スタッフや
司法書士など専門家にご相談ください。


 

 

用途上不可分の離れを
母屋と同じ敷地内に建てる場合も、
敷地を分割して
水廻り3点セット有の建物を建てる場合も
敷地と建物に係る各種規制を
クリアしなくてはいけません。


①接道義務
建築基準法第43条に
建築物の敷地は幅員4m以上の道路に
2m以上接しなければならないと
規定されています。
(建築基準法第43条・第42条より
抜粋・編集)

敷地を分割または分筆するときには
新しくつくる2つの敷地が
それぞれこの接道義務を
満たしていなくてはいけません。

母屋と同じ敷地に建てる場合
(用途上不可分の離れ)は
新しい敷地をつくらないので
関係ありません。


②建ぺい率・容積率
敷地は都市計画にもとづいて
建ぺい率・容積率が決められています。

母屋と同じ敷地に建てる場合
(用途上不可分の離れ)は
母屋+離れの合計建築面積が
その敷地の建ぺい率を超えてはならず、
合計延床面積がその敷地の容積率を
超えてはいけません。

つまり敷地面積200㎡で
建ぺい率60%・容積率200%の敷地に
建築面積100㎡の母屋が建っている場合、
離れの建築面積は最大20㎡にしかできない
ということです。

一方、敷地を分割または分筆して
水廻り3点セット有の建物を建てる場合は
それぞれの敷地に
建ぺい率・容積率の規制が適用され、
それぞれの建築物がそれを
クリアしていなくてはいけません。

敷地の分割または分筆をする前に、
その条件下で希望の建物が
建てられるかどうか
専門家としっかり検討することが大切です。

また、このときに建ぺい率いっぱいの状態で
分割・分筆すると
のちのち増築したくてもできません。

難しいかもしれませんが、
将来の可能性までよく考えて
どのように分割・分筆するかを
決めた方がいいでしょう。

※建ぺい率:敷地面積に対する建築面積の割合
(建築面積÷敷地面積×100)
※容積率:敷地面積に対する延床面積の割合
(延床面積÷敷地面積×100)



③延焼ライン
防火地域・準防火地域では、
離れも水廻り3点セット有の建物も
既存の建築物(母屋)も、
すべての建築物で
延焼ラインより外側にある窓を
防火戸にしなくてはいけません。

母屋と同じ敷地に建てる場合
(用途上不可分の離れ)は、
元々の敷地に延焼ラインが適用されます。

敷地を分割または分筆して建てた場合は、
新しくできた2つの敷地に
それぞれ延焼ラインが適用されます。



延焼ライン、防火戸については
こちらの記事をご参照ください。
新築住宅の窓の付け方


このほかにも
隣地への陽当たりを確保するために
建築物の高さを制限する斜線制限や北側斜線
隣地境界線からの距離、
有効な採光面積など
敷地と建築物に係る様々な規制を
既存の建築物(母屋)・離れ・新しい建物が
それぞれすべて守らなくてはいけません。

離れや水廻り3点セット有の建物を
計画するときには
それらをすべてクリアして
希望の建物ができるかどうかを
建築士と相談してください。

また既存の建築物(母屋)は
離れや新しい建築物ができることで、
それまで規制をクリアしていたものが
アウトになってしまう
既存不適格になる恐れがあるので
注意が必要です。


 

 

比較的気軽に考え始める人も多い
離れの増築ですが、
このようにたくさんの規制をクリアして
初めて建てることができます。

敷地に余裕があると
つい具体的な計画を考えたくなって
工事担当者などに相談を始める方も
いらっしゃいますが、
まずは建築士に相談して
希望の建物を建てることができるかの
検討から始めてください。